ひばりとスズメ(ピアフ)をトキが歌う!①
(2017.6.11.オーチャードホール)




【~人生の始まりと終わり~ひばりとピアフ。いよいよ東京公演!】

オーチャードホール楽屋口を入ると既にトキコさんへの色とりどりのお花が沢山届いていて、花の小径を通ってるみたいだ。楽屋で機材を準備し、ちょっと急ぎ足でリハーサルをするトキコさんのところへ向かう。

ホール全体に響く歌声は、心にしみじみと深く染み入る芳醇な歌声で、暗闇でカメラを設定しながらステージに目を凝らすと、水玉模様の私服に可愛らしく身を包み、身体でリズムを取りながら歌う、トキコさんの笑顔が見えた。

これから本番という時のトキコさん、いつも楽しそうに見える。丁寧に、一通り確認したあと「それじゃあ、お願いします!」そう言って楽屋へと消えた。あと1時間半もすれば、いよいよ始まる。東京公演、千秋楽。


【第一部、開演です!】

1ベルを聴きながら、客席を見上げると、はるか三階席までびっしりとお客さんがひしめいていた。これから始まるトキコさんのステージを待ち焦がれる客席の熱気を感じながら、自分の心もドキドキしてきた。

静けさの中、ピアノがポロン、ポロンと始まり、ゆっくりとした空気が流れていく。急に、暗闇の大海原を、さざ波が広がるように拍手が起こったと思うと、トキコさんがステージに登場した。オープニングはこの曲「星の流れに」。真っ赤なドレスの上に、燕尾服を思わせる黒いジャケット、客席に向かって潜むようにふんわりと笑いかけると、一瞬ひばりさんの面影が重なる。




♪星の流れに

~荒む心でいるのじゃないが 泣けて涙も涸れ果てた こんな女に誰がした~
(オリジナル歌手:菊池章子、作詞:清水みのる、作曲:利根一郎)

「彼女が11歳の時に菊池章子さんの前で歌って大喝采を浴びた一曲です。本当は一番の得意は「東京ブギウギ」だったそうですが、あんまり評判が良くて、本家本元の笠置シヅ子さんが「歌ってはいけません」とひばりさんに言ったそうなので、今日は私も歌わないことにしました!」

子供時代のひばりさんにそんなエピソードがあったことに驚きながら、見渡すと、客席は楽し気な笑いに包まれていた。
この楽曲は、「子供のくせに娼婦の歌ですか」と言われ、大変な評判になった歌だそうだ。この風圧の強さこそ、ひばり魂の原点だとトキコさんは言う。花は強風に吹かれて根を強く張るというが、先輩歌手に危機感を抱かれるほど歌がうまく、また世の中からの風当たりの強い中でのスタートが、まだ子供だったひばりさんの魂を一層強くしたのだろうか。

「ひばりさんの誕生日を皆さんご存知ですか?1935年5月29日!ついこないだ、ひばりさんは80歳になられました」

朝から、東京大空襲の1.5倍の焼夷弾が横浜を襲った日に8歳の誕生日を迎え、それでも戦後、焼け野原で逞しく歌い続けた子供時代のひばりさん。四国の巡業の時に大変なバス事故に合い、文字通り九死に一生を得た彼女は、(歌うために、自分は生き延びたのだ)と考えて歌い続け、その半年後、美空ひばりとしてデビュー。
12歳の時には主演映画も大人気に。その主題歌が、悲しい口笛。



♪悲しい口笛
♪東京キッド
♪津軽のふるさと

10代で次々とヒットソングを生み出し、輝かしい歌手人生を歩み始めたひばりさん。
でもなぜか最後まで、歌手としては幸せだったかもしれないけど、女としてはどうだったのかしらと言われ続けたという。

「色々悔しいことも寂しいこともあったと思いますが、そのどんな時も、つらければつらいほど、寂しければ寂しいほど、歌手としてのひばりさんは輝いたのだと思います」

1964年オリンピックの年に発表された「柔」。知られていないが実は、その直前に小林旭さんとの離婚会見をしていた時期だった。「てっきり柔道の歌だとばかり思っていましたが、もしかすると・・・女心の激白だったかもしれませんよ」


♪柔

ベーシスト鳥越さんの、どこか懐かしいようなベースの円い音が、弾むようにボンボンと響く。歌いだすトキコさんはどこかはかなげで、『柔』といって思い浮かぶ、袴姿でどっしりと歌うひばりさんの印象に比べ、女の唄としての新鮮な柔らかさを感じながらシャッターを切る。

~せめて今宵は人間らしく 恋の涙を 恋の涙を 噛みしめる~
(作詞:関沢新一 作曲:古賀政男)

Tokiko Kato

続き、鬼武さんのピアノが踊りだし、客席も手拍子に包まれる。


♪真っ赤な太陽
♪悲しい酒
♪さくらの唄

~愛した君も今頃は 僕のことを忘れて 幸福だろう~
(作詞:なかにし礼 作曲:三木たかし)

さくらの唄。なかにし礼さんがこの歌を作った時のことをトキコさんに話してくれたという。
「礼さんが満州から引き揚げ、小樽で一旗揚げようとして失敗し、青森にたどり着き、その後、作詞家として大成功したが、家族にも色々あって、生きているのが本当に嫌になっちゃった時期に書いたそうです。でも死ぬわけにもいかないから、ひっそりとこの歌を作った。でも、(こんな暗い歌は世の中に出しちゃいけない)と思っていたら、三木たかしさんが詞をつけたことをきっかけに、出来ればひばりさんに歌ってもらおうという話になった。
ひばりさんに楽曲を目の前で聴いてもらったら、三回繰り返し聞いて、最後にぽろっと涙を流し、正座をして、(歌わせて頂きます)と言ったそうです」

いい話だな・・・と思った。次々と飛び出すひばりさんの人生と楽曲との知られざるエピソードに引き込まれ、正座をしたひばりさんの情景が浮かぶ。シーン、と波を打ったように静かに聴き入る客席。そこに突然、トキコさんの声が、小石をぽん、と投げ入れた。

「あ!スカートがとれた!」

(えっ?!たいへんだ!)
慌ててステージに目をやると、よかった、下に別のスカート・・・(ほっ)
ホール全体の空気が一変、笑いの渦に包まれた。何かのはずみで、とめてあった衣装のホックがとれてしまったようで、下に履いたミニスカートの上に、ロングスカートを留めなおそうとしているトキコさんがいた。

Tokiko Kato

「これは・・・はかなくてもいいってことかな?(笑)」
思いがけないハプニングに、客席はしばらく笑いの渦が次々と爆発する。
マイクを握ったまま直そうとしてもうまくいかず、しばらくして笑顔を向けた。
「あとでまた、つけてみるわね!」

お客さん達は本当に楽しそうだが、その余韻はさておき、トキコさんはすぐにひばりさんの世界に連れ戻してくれた。

「私はさくらの唄を聴いたとき、本当に震えましたね。この歌を歌った1976年は、ひばりさんにとっての人生最悪の時期と言ってもいいかもしれません」

73-79年、NHKに出られなかった時期があり、同じころ、それに合わせるように日本中の公共ホールがひばりさんを拒否したという。

人が歌に出会うタイミングはふしぎだ。その時の自分に一番響くものに、ちゃんと出会い続けて行く気がする。

「ひばりさんは、その後、見事にこの逆境を超え復活。いよいよだと思ったとき、既に哀しみのゴングはなっていました」
5年後に母親が亡くなり、続いて弟さん二人、そして、ひばりさん本人も大きな病気を抱えることになった。
「それでも、ここからがまた、奇跡。素晴らしい音楽との出会いが次々とあるんです!」

Tokiko Kato


♪愛燦々
♪みだれ髪

包み込むような芳醇な歌声に抱かれ、客席はうっとりとその世界に酔っているよう。

「病に打ち勝つということは身を守ることではなくて、以前にもまして強く生きることだと、教えられた気がします」

Tokio Kato

いい話だな・・・また、しみじみと涙が滲みそうになったその時、さりげなく、さっき取れたスカートを持ち上げた登紀子さん。
スカートを装着しようとするトキコさんの様子の可愛らしさに、客席からまたもや何度も笑いが起こる。
「・・・この方が落ち着くでしょう?(笑)」


♪終わりなき旅

1988年、退院後の東京ドームコンサートを大成功させたひばりさん。いよいよ復活かと思われたが、翌年、52歳の若さでこの世を去る。

Tokiko Kato

「それにしても、このドームを実現させた心の強さには驚きますし、その後も、不死鳥パート2として、新しい歌をレコーディングされています。私たちに、ずっと残るであろう歌を残してくださいました。最後はこの曲です」


♪川の流れのように

ひばりさんの人生をたどりながら、その折々に生まれた歌、選ばれた歌、その背景にある出来事を探りながら、より深く、ひばりさんの歌の世界へと連れて行ってくれたトキコさん。楽曲をただ楽曲として歌うのではなく、その歌手の人生を深く理解し、向き合いながら改めて楽曲を見ると、また新しい側面が見えてくる。そう教えてくれた。

「その人がどういう状況で歌ったのか。その心の中まで、掘り下げて歌うのが私の意地」
その夜の打上げで、友人ライターからの質問にそう答えていたトキコさん。

『柔』の新しい感じ方を味わい、またそれを歌うトキコさんの歌声が、ひばりさんとはまた別の歌声なのに、何かが奥で通じているように感じられるのも、このコンサートに参加した人たちの新鮮な発見だったのではないだろうか。



ーひばりとスズメ(ピアフ)をトキが歌う!②ーへ続く

写真と文:ヒダキトモコ

 



ヒダキトモコ
写真家。日本舞台写真家協会会員。
各種雑誌、CD/DVDジャケット等エンタテインメント全般、企業広告等を撮影。
趣味はバックパッカーの旅。
http://hidaki.weebly.com / twitter ID: hidachan_foto

 

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