ほろ酔いコンサート東京2日目 2016年12月28日 ~みんなの歌に包まれて歌おう~


 
◆第一部、今日の日に乾杯!

客電が落ち、静寂の中、はたけやま裕さんのスティックが響いた。1,2,3,4!
最初の曲Begin Againの明るいイントロが、小太鼓のリズムと共に行進曲の様に響き、少し間があってトキコさんが笑顔で片手をあげて登場すると、会場は拍手で満ち溢れる。

加藤登紀子ほろ酔いコンサート2017

「いま 始まる!Begin again! 」

~大丈夫なんて言えない 何があるかわからない
思い出も消していく 時間という雨の中
走っても走っても ゴールなんかどこにもない
あんまり急ぎすぎて 幸せを追い越すな~ (作詞作曲:加藤登紀子 Begin Again)

「東京でのほろ酔い!もう、あと一日しかない!大事なオールラスト前です!」

2曲目に行く前に「そうだ、呑んでから!」
そういって、まずは一杯、にこにこと手酌をして、高らかに盃をかかげた。
「人生に、乾杯!出会いに、乾杯!別れにも、乾杯!そして今日の日に乾杯!」
そういって一気に飲み干すと、客席からは一気に歓声があがる。

加藤登紀子ほろ酔いコンサート2017

飲み干すやいなや、颯爽とトキコさんは客席に降りて行く。目の前の客席の男性に目配せすると、思わず男性は腰を浮かせ、トキコさんはまるで王子様にエスコートされるお姫様の様にふんわりと美しく客席に降りた。2人の間に一瞬交わされる淡いときめきが感じられて思わず撮っているこちらも胸がポっとなる。
トキコさんはこうして一瞬にしてみんなの心を奪ってしまう。

そして3曲目の百万本のバラのイントロが始まり、客席は(あ、百万本のバラが聴ける!)というように一瞬どよめいたが、その後すぐ、どよめきは「あっ」という大きな驚きと動揺と、心配と面白さと愉快さが入り混じった、大きな歓声へと変わった。
確認していた手元のカメラから目線を上げると、トキコさんが光を浴びて、1席空いていた客席の1つによじ登って歌いだしているのが見えた!

加藤登紀子ほろ酔いコンサート2017

通路を歩いて握手をしながらお客様と触れ合いをする歌手は、世の中にたくさんいる。
でも日本中で、客席の通路の中へ、足の間を縫って入り、客席の上に立ち上がって歌える歌手は、加藤登紀子さんだけじゃないだろうか。

名曲「百万本のバラ」を、数センチ先の本人の笑顔を前に生声で聴ける幸せ。
予想すらしない展開に今夜のお客さんにはきっと、一生忘れられない夜になるだろう。
立ち上がったトキコさんは、まるでフランスのドラクロワの絵画「民衆を導く自由の女神」のようで眩しかった!そばで控えるマネジャーさんと私だけが緊張感ある表情だが、トキコさんもそれを囲み手拍子するお客さんも、とにかく笑っている・・・。

実はこの夜の打上げでトキコさんに、椅子に立って歌うのは怖くないか聞いてみた。
「大丈夫よ。折れ曲がるシートじゃなくて、椅子のひじ掛けに立つのよ!クっと力を入れてね!」

続く「琵琶湖周航の歌」では、イントロの時にトキコさんが歌うように優しく話しかける。
「歌おうね。いいなぁ、みんなの歌に包まれて歌えるなんて!」
少し先に歌詞を言ってあげながら、みんなと目を合わせながら歌う歌詞の日本語の美しさ、そして旋律のうららかなのどかさに、私は撮りながら胸が熱くなった。

時折マイクを向けられたお客さんがワンフレーズ歌うと、その意外な歌のうまさに会場全体がびっくりしたり、うっとりしたり、大きな拍手で満たされる。まだ冒頭だというのに、会場はまるで一つの大きなキャンプファイヤーを囲む仲間のように、既に一つの心でつながっている様だった。

加藤登紀子ほろ酔いコンサート2017

その演奏が終わるか終わらないかの内に、最後に歌ってくれた人に向かって
「血圧大丈夫、あなた?」
その気さくさに客席は、花火が打ちあがったようにドカンドカンと笑っている。

「もう、病みつきになっちゃうわけよ。幅がいいのよね、シートの幅が。いつもにも増して、いい百万本のバラが歌えた気がします。みなさんが花ですもんね、・・・まあ、どうにか花ですよね(会場爆笑)。花でいっぱいになった広場にいるような気になりました。ありがとうございます」

トキコさんの話は飾らなくて、面白くて、ぐっと引き寄せて車座でお酒を呑みながら話しているように大笑いしたかと思えば、次の瞬間に美しい絵画のような物語の世界へと歌で連れて行ってくれる。この絶妙なリズム感にお客さんは知らぬ間にメロメロにされてしまうんじゃないだろうか。

加藤登紀子ほろ酔いコンサート2017

ほろ酔いコンサートは1971年、今から数えて45年前、知床旅情がヒットしたり、紅白に出場したりした年に周りの新聞記者に「おときさんはもっと、例えば酒を飲みながら聴けるようなコンサートが似合うよ」と言われて始めたコンサート。当初は日劇ミュージックホール、当時はトキコさんが27歳。客席は酔っ払ってあまり静かに歌を聞いてくれない状況で、トキコさんもステージ上でも飲み始めたというのが始まりだそう。間2回お休みがあったほかは、毎年続いている、ほろ酔いコンサートの歴史。

日劇ミュージックホール満杯の酔っ払いのお客さんと、27歳のトキコさん。楽しそうだなぁ。見て見たかったなぁ。その頃、まだ生まれていなかったけど。

加藤登紀子ほろ酔いコンサート2017

「難破船」、「時代遅れの酒場」と一気に歌うと、ふと遠くを見つめるトキコさん。

「懐かしい歌ですね。色んなこと思い出しました。“居酒屋兆治”っていう映画ができる5年前にこの歌を作りました。モデルになったお店は京都の先斗町にあったんですよ」

それはトキコさんの旦那さんである藤本さんがお気に入りだった小さな酒場で、彼が留置所にいる間、トキコさんはお店のみんなに可愛がってもらって、朝まで飲んだりしたらしい。
ある日、近くでクリスマス・ショウをやった後、打上げでその店で飲みなおし。
「それこそ、そのバーの小さなカウンターをステージにしちゃってね!・・・ああ(笑)」
といってギターをとるトキコさん。

「あんなこともあった、こんなこともあった、色んな事があったね。
月の断面っていうかね、どっちかっていうとクラッシュしているものほど、輝くものよね。
自分なりの視点で見た時代を表現してみました、“1968”聴いてください」
さらりと口にする言葉のきらめき、トキコさんの言葉を選ぶ感覚が、とても素敵だと思う。

加藤登紀子ほろ酔いコンサート2017

加藤登紀子ほろ酔いコンサート2017

今年のほろ酔いコンサート(東京)は、毎晩スペシャルゲストを迎える。
この夜は、鴨川で農業をしながら歌手生活を送る、トキコさんの次女Yaeさん登場。
今年が歌手デビュー15周年の記念の年だった。

生前、トキコさんの夫の藤本さんはYaeさんが歌手としてやっていけるのか、親心で心配だったということだが、今のYaeさんはトキコさんとまた違うタイプの魅力、でもどこか同じ土の匂いのする、芯の強い、凛とした歌声を持つ素晴らしい歌手。
私は今年、Yaeさんの15周年記念コンサート(千葉・勝浦)も撮らせて頂く機会に恵まれ、改めてその歌声の透明さと力強さに魅了された年だった。

Yaeさん「今年になって、alive~いまここに生きている~というテーマが浮かんできたんですよ。デビューしてすぐに、こうあるべきだとか、色々着込んできたものを、全部脱ぎ落したらYaeがいた、という感じです。素直に自分を歌えたような気がします。まだまだ15年なので、これからも土の上で子供たちと共に生き、歌も歌い続けて行きたいなと思います」

そんなYaeさんの2曲の後、大きな拍手に包まれて第一部は幕を閉じた。

   
   
◆第二部~ ラテンのリズムからピアフまで。

加藤登紀子ほろ酔いコンサート2017

第二部一曲目は「雑踏」。激しいラテンのリズムの中で歌い踊るトキコさんの表情が美しい。歌詞の内容もあいまって、ドキドキハラハラする燃えるような恋の歌。

加藤登紀子ほろ酔いコンサート2017

私にとってこの日、印象的だった作品が「オペラ」。
トキコさんのアルバム「シパンゴ」に収録されている一曲で、フランスのピエール・グロスが詩を書き、晩年のピアフと組んで作曲していた、フランシス・レイが曲を書いた作品。今年のパリ公演でも、トキコさんが歌った作品。

「ある町の広場、フェスティバルが開かれていた、真昼間・・・」
そんな語りからぐいぐいと引きずり込まれるドラマティックな歌の世界。
芝居のはずなのに、実際に拳銃が撃たれ、人が倒れ、人々は喝采する。
そんな不思議な世界を描いた作品だった。
まるで不条理劇を見ているような胸のざわめきを感じつつ、なぜかとても気になってしまう。

加藤登紀子ほろ酔いコンサート2017

続く1曲は名曲「愛の讃歌」。
トキコさんの歌う「愛の讃歌」は、やはり格別だ。
ピアフが恋人を亡くして歌った歌として有名だが、トキコさんも最愛の夫を亡くしてから、永くこの歌と葛藤してやっと最近、自分の歌として歌えるようになったという一曲。

芳醇な赤ワインの香りの中で目を閉じているような気持にさせてくれる深い歌声と華やかなメロディに会場全体が暖かく包まれる。会場の隅々まで満たす渾身の歌に割れんばかりの拍手、そして歌い切るトキコさんにあたるライトが強くなっていき、私も心が熱くなっていく。

歌が終わり、トキコさんが去り、演奏が終わってバンドメンバーが去っても、客席の拍手は鳴りやまず、お客さんのためを思ってかそれほど待たせることなくバンドメンバーが走って戻ってきた。

   
   

◆さあ、第三部?のはじまり!

加藤登紀子ほろ酔いコンサート2017

アンコールのオープニングは、ピアフの「私は後悔しない」。
トキコさんはミニスカートに真っ赤なコートを羽織っている。
ピンヒール片足で、すっと立つ姿は本当にチャーミング!
これだけ全力で歌い切ってからのアンコールでも、疲れが見えないどころか、パワーアップしているような気がする。

「ピアフを歌ってると強くなれていいですね!」
来年は、ひばりとピアフを一つの舞台の上に乗せてみようと思っているトキコさん。
「ひばりさんが歌手としてスタートした時の時代、そして数年の最後の歌の素晴らしさに圧倒されます。そして人生の最後の最後のぎりぎりの一滴まで歌にささげたピアフ。
ひばりとピアフ(すずめ)を、トキが歌うのよ!!来年は酉年ですからね!」

加藤登紀子ほろ酔いコンサート2017

「皆さん用意はいいですか。乾杯!」
そうして、なみなみと注いだ杯を一気に飲み干すと、残りのしずくを客席に向かって空高く放った。

「色んな人に、感謝を込めて!」
そう言いながら「富士山だ」と「知床旅情」を歌い切ったトキコさん。

最後はYaeさんと、バンドFunkistを呼び込んで、大人数で歌う新鮮な2曲!
「実は、鴨川の活動とか、土と平和の祭典とか、色々10年続いた中でこの夏、みんなで作ったCDがあります。「Love farmers, we are」 を一緒にレコーディングしたFunkistも来てくれています」

Funkistボーカルの染谷西郷さんは、
「今回、初めて田んぼの中でレコーディングしました。虫の声、子供たちの声を聴きながら」
鴨川の田んぼで、みんなでレコーディングをしている姿を思い浮かべると、ほのぼのと楽しい。

加藤登紀子ほろ酔いコンサート2017

♪たんぼたんぼ

~秋は稲刈り、空はスッキリ、川でズンズン、稲穂ずっしり~
染谷西郷さんのラップが響き渡る。

トキコさん、客席に向かってにっこり。
「みなさんも、歌いたくなったでしょ?田んぼにもぜひいらしてくださいね!」

加藤登紀子ほろ酔いコンサート2017

♪Love farmers we are

最後の一曲は、FunkistのHUMAN BEATBOXこと、口でリズムを刻む素晴らしいアーティストSIMAさんのリズムに乗って、染谷西郷さんのラップ、Yaeさんの凛とした透明な歌声とトキコさんの芳醇な歌声が一緒に響きわたる。全員での大合唱に、客席は立ち上がったまま熱気に包まれた。
最後はトキコさん、バンドメンバー、Yaeさん、Funkist、全員で手をつなぎ、何度も何度も歓声に応えている姿に、拍手は鳴りやまない。

加藤登紀子ほろ酔いコンサート2017

あぁ、ほろ酔い東京の2日目も、これで終わってしまう・・・。
名残り惜しいと思う瞬間が多いほど、幸せなのかもしれない。

加藤登紀子ほろ酔いコンサート2017

「ありがとう!」

包み込むような笑顔でみんなに手を振るトキコさんの姿に、思わずシャッターを切った。

あっという間のほろ酔いコンサートツアー2016。
でも、こうして走りながらもきっと、トキコさんは来年挑戦する新しいステージ「ひばりとピアフ」の構想をもうすでに、ワクワクしながら練っているに違いない。
いつもの愛用の鉛筆で、ノートにのびのびと書き込みながら。

豪快で、愛に溢れていて、普段歩くときは少し前のめりで、かなり早足なトキコさん。ついていくのは大変だけど本当に楽しい。来年も置いて行かれないように、これからも思い切り写真の腕を磨いて、体力をつけておかなくては。ぼやぼやしていると、あっという間にその背中を見失ってしまいそう。今年も素晴らしいほろ酔いコンサート、ありがとうございました。

写真と文:ヒダキトモコ

 



ヒダキトモコ
写真家。日本舞台写真家協会会員。
各種雑誌、CD/DVDジャケット等エンタテインメント全般、企業広告等を撮影。
趣味はバックパッカーの旅。
http://hidaki.weebly.com / twitter ID: hidachan_foto

 

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