オーチャードホール2018 ~TOKIKO’S HISTORY 花はどこへ行った~


◆春のオーチャード

毎年、毎ステージ、新しいトキコさんを発見する。例年夏に行われることが多いオーチャードホール・コンサートは、今年は一足早い4月の開催。一昨年のテーマはエディット・ピアフ、昨年はピアフとひばり。そして今年はトキコさんのヒストリーと名付けられたこのコンサート。同時に新アルバム「ゴールデン☆ベスト TOKIKO’S HISTORY」と自伝「運命の歌のジグソーパズル TOKIKO’S HISTORY SINCE 1943」も発売された。

開演前、楽屋から舞台袖に向かう白い廊下でトキコさんを待つ。今年も数々のアーティストや番組、テレビ局等から贈られた花が溢れんばかりに楽屋エリアを埋めている。しばらくするとトキコさんが、背筋をすっと伸ばし、さわやかな笑顔を浮かべてこちらに歩いてくる。ステージに向かうトキコさんの、清々しいカッコよさは、何度撮影していても痺れるものだ。

◆開演、静かなオープニング

バンドメンバーが位置につき、珍しく静かなピアノソロからスタート。これはピアノを担当する鬼武みゆきさんがトキコさんをイメージして書いた一曲「雨音」をアレンジしたもの。続いて悲し気なアコーディオンの音色が広がり「悲しき天使」が始まり、トキコさんが登場すると、会場全体から星屑が瞬くような拍手が起こった。

♪悲しき天使♪
~夢のままに生きていくわ 誰にも邪魔されずに~
思わず誰もがライライライ、ライラライ、と口ずさみたくなる有名なメロディに自然に手拍子が広がる。芳醇な赤ワインのようなトキコさんの低音が会場全体に広がり、会場のオーディエンスは一瞬にして心を奪われていく。シックで軽やかな、大人のコンサートの始め方があるとすれば、この日はまさにそんなオープニングだ。

♪美しき五月のパリ♪
♪さくらんぼの実る頃♪
「オ~ル~ジョリ・ムワ・ド・メ・ア・パリ!」高らかなコーラスから始まる次曲も勇ましく、一気にパリの五月革命の世界に引き込まれたかと思うと、続いて、映画「紅の豚」の中で歌われた、夢見るようなメロディと歌詞の世界にうっとりとさせられた。

大きな拍手の渦が静まった頃、会場全体が集中するなか、トキコさんがマイクを握って深みのある声で、このコンサートの第一声。
「・・・加藤登紀子です!」
思いがけない一言で口を開いたトキコさんに、客席には楽しそうな笑いが広がった。

◆トキコさんをまな板に

「一昨年はピアフ、昨年はピアフとひばりをテーマにして、今年はとうとう加藤登紀子をまな板に載せるしかないということでTokiko’s Historyにしました。でも2つ問題があってね!1つは、2人に比べて長生きであること。長生きの人のヒストリーを語るのは大変なのよ!そしてもう一つは、まだ生きているということ(笑)」
会場には、更なる笑いの波が広がっていく。
「Historyっていうからには、ある程度過去の人になってないといけないんだけど・・・なんちゃって!あれ?自分で言ったら変か??私はまだ、過去の人では、ないので!!!(笑)」
ふと見ると、会場と一緒に、トキコさんが大笑いをしている。

◆生トキコ

トキコさんのMCはこんな風に、よく会場から大爆笑が起きる。コンサートはお洒落な雰囲気だが、話すときは全く気取らず、むしろ一緒に小さな酒屋で飲んでいる同士のような距離感で話される、色々な話の面白さ。そのオープンで明るい人柄と相まってお客さんにはコンサートで「生トキコ」に逢いたくなる理由の一つに違いない。その深い声で話されると色んなことが、説得力を持って感じられるのは私だけではないだろう。笑って泣いて、時に怒って。CDでは味わえない、コンサートならではの大きな魅力だ。

♪時には昔の話を♪
♪知床旅情♪

知床旅情という歌を、トキコさんは1968年3月に初めて聞いた。後に夫となる藤本敏夫さんが、歌手であるトキコさんの目の前で朗々と歌うその歌にショックを受けたという。
「改めて、歌って何なんだろうと思って。歌は、音符であり言葉ですね。音符と言葉を、人がその身体の中で奏でることで生きているものに変わるんですね。そしてそれは思いがけない旅をするのだと思います」
それから一年後、ひとり寝の子守唄を作ったトキコさん。
「歌っていうのはこんな風に、ささやかな子守唄のような一人と一人の関係でやっと成り立つのか」そう思いながら歌うトキコさんを見て、ある時、森繁久彌さんが「僕の心と同じ心で歌うね」と抱きしめてくれたという。
「今日はレコーディングしたのに近いアレンジで、『ひとり寝の子守唄』を歌ってみたいと思います」

♪ひとり寝の子守唄♪

オリジナル・アレンジで朗々と歌いだしたトキコさんの歌は、いつものこの歌と違った。これを作った若い頃の、どこか不安げな危うさを感じさせる、まっすぐで、ひたむきな声だった。カメラを構えながら、自然と涙が出た。

歌い終えると、会場は一瞬の沈黙。次の瞬間、まるで広大な草原が一瞬にして燃え上がるかのようにホール全体から熱い拍手が沸き起こった。
拍手にも、表情があるみたい。お客さん一人一人が、手の叩き方に、強さに、それぞれの気持ちを乗せて、舞台で静かに頭を下げるトキコさんに届かせようとしているように見えた。

♪鳳仙花♪

続いて、韓国語で歌う鳳仙花。外国語なので、言葉一つ一つの意味はわからないはずなのに、その気持ちがニュアンスが日本語以上に伝わる気がするのは何故だろう。世界中の歌を聴いてみたい。どんな言語で歌われようと、きっと何か、感じるものがあるはずだ。それは最終的には、人がより良く生きたいと願う、共通の想いに通じるような気がする。

◆ロシア音楽の縁

今回はバンド編成に、新しくバラライカの北川翔さんと、アコーディオンの大田智美さんを加えたメンバー。北川翔さんの祖父、北川剛さんは合唱指導者で、シベリア抑留中にバイオリニストの黒柳守綱さん(黒柳徹子さんの父)、チェリストの井上頼豊さんと「沿海州楽劇団」として日本軍捕虜収容所の巡回・慰問にあたった人だ。帰国後もロシアの音楽を日本に広める運動をしていたという意味で、トキコさんのお父様と共通点がある。

♪1968♪
♪あなたの行く朝♪
♪花はどこへ行った♪

ベトナム戦争の枯葉剤の影響で連結性双生児として生まれたドクちゃんが自身の新婚旅行で来日し、トキコさんのコンサートを聴きに来たことをきっかけに生まれた「1968」、二人目の子供を産んだ直後、子育てに追われながら夜中に作った「あなたの行く朝」、そして反戦歌として有名な「花はどこへ行った」を一気に歌って、一部は幕となった。

◆第二部、そしてラブソング

♪アムステルダム♪
♪暗い夜♪
♪今日は帰れない♪

第二部が始まった。哀しく美しいメロディに乗って、絵本のページが次々とめくられていくように、情景がはっきりと浮かんでくる歌が3曲、続いた。

「私が生まれた1943年はひどい時代だと思いましたが、母はいつも、あなたはいい時に生まれてきてくれた、と言ってくれました。どんなにひどい時代であっても、そこに生まれてくる人は、未来を変える力があるということを母は教えてくれたのだと思います。
43年に生まれた私のオリジナルで、遠い祖国という歌を聴いてください」

♪遠い祖国♪
♪あなたに逢えたら♪

『あなたに逢えたら』は古い歌で1870年にチュッチェフという人が、二十歳のころから思い続けて叶わなかった恋人と、約50年後に彼女に宛てたラブレターが歌詞の元となっている作品。それに訳詞をつけて今回初披露される、古い曲だが、新曲である。

「でも昔の歌を新曲として歌うのは、加藤登紀子としては珍しくないのよ!(笑)」

♪暗い日曜日♪
♪3001年へのプレリュード♪
♪愛の讃歌♪

最後は『愛の讃歌』で光に包まれ、大輪の華が咲いたようにステージは輝いた。
鳴りやまない拍手の中でトキコさんが叫ぶ。

「ありがとうございます。・・・アンコールなんかないのよ今日は!!」
会場がどっと笑う。
「と、思ったんだけど、アンコール用に新しい歌を作ってきました!さっきまでのことは、もう忘れてちょうだい!」
楽しい笑い声の中、すかさず会場から男性の太い声で「アンコール!」と声がかかる。
「どう??がーんと行ってみる??」
冗談ぽく、客席をあおるように微笑むトキコさんに、次々と立ち上がるオーディエンス。

「今年は加藤登紀子まな板に載せて組んでみました。色々な時代の歌をやって、何が最後に残ったか・・・??ラブソング!なんだかんだ言っても、全部ラブソングなの!」
客席が笑いと共にどっと熱を帯びる。
「別にいいのよ、相手がいなくても!そうでしょう?だって私も居ないもの!(笑)
でも、いないってことは無限大ってことなんですよ!」

♪Dance Dance Dance!♪

アップテンポでメロディアスなオープニングと共に客席からは手拍子の嵐。
~ダンスダンスダンス!ラララーラーラ、ダンスダンスダンス!~
バンドメンバー、会場も一緒になったコーラスとなり、熱気もそのままに最後は『百万本のバラ』へ。

♪百万本のバラ♪

全員で大合唱。トキコさんがマイクを向ける形でなく、歌うトキコさんと、一緒に会場が歌う。

歌い終わっても、感動の熱い拍手が鳴りやまない。花束を抱えた女性がステージに駆け寄り、トキコさんが受け取って、こぼれるように微笑んだ。まるでトキコさん自身が大きな花のように見えた瞬間、思わずシャッターを一回切った。

「まだ話し足りないこともあるので、運命のジグソーパズルは必ず読んでね(笑)それから、歌も沢山聞いてほしいので、CDも出したから聞いてね。CDを聴きながら本を読むと、一番わかるかもしれないね!!今回、本当に頑張ったんだよ、褒めてね!!(笑)ありがとうございました!」

こうしてトキコさんのコンサートを撮り終わる瞬間、名残惜しさと、大きな暖かな充足感とが入り混じった気持ちになる。常に新しい挑戦や進化を繰り返しながら、どんどん前へ進み続けるトキコさん。トキコさんの言う通り、ヒストリーというには、今なお現在進行形で疾走を続けるアーティストかもしれない。今回のコンサートで一番胸に響いた、オリジナルバージョンの「ひとり寝の子守唄」も、また明日には、新しい日々と共に深くなった歌へと変化を続けていくだろう。歌も人も、旅をつづける。そして旅をするトキコさんを、追い続けて行きたいという気持ちが、また新しく湧いてくるのだ。

写真と文:ヒダキトモコ


 



ヒダキトモコ
写真家。日本舞台写真家協会会員。
各種雑誌、CD/DVDジャケット等エンタテインメント全般、企業広告等を撮影。
趣味はバックパッカーの旅。
http://hidaki.weebly.com / twitter ID: hidachan_foto

 

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TOKIKO’S HISTORY 花はどこへ行った〜加藤登紀子コンサートツアー2018
1968年から半世紀、2018年に贈る未来への詩(うた)

6月3日(日)山形シベールアリーナ
6月10日(日)神戸国際会館こくさいホール
6月16日(土)よこすか芸術劇場

総合受付 TEL 03-3352-3875

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