城西国際大学 トキコ先生登場!
生徒は2年生、先生1年生!
鴨川の海が見下ろせる山の上に、ピカッと光るガラス張りの建物が見えてきた。車はグルグルと坂道を登っていく。
リゾートホテル? いえいえ、ここは2006年に開設したばかりの城西国際大学、安房キャンパス。潮風が気持ちいい、なんともおしゃれな大学だ。
トキコさんは、この春から、この大学の先生となった。あっちこっちで、講演はやっているけれど、ちゃんと単位となる授業を持つのは、はじめてだという。
そんなきちんとした?授業だから、当然、コンサートのようにお酒も飲めないだろうし(飲みながら歌う歌手もあんまりいないけれど)、カリキュラムに沿って授業をするなんてことが、破天荒なトキコさんにほんとに可能なのか、ちょっと疑わしい。
もちろん、そんなことをご本人には言えないから、まずはお手並み拝見、本物の学生さんに混じって、聴講させてもらうことにした。
が、出発間際となって、なにやら、トキコさん、紙を机にバサッと広げると、ハサミを取り出しチョキチョキ切り始めた。スタッフもノリをペタペタ……いったい何を始めたの? はやくしないと、講義に遅れますよ。
「学生の名前と顔が一致しないのよ! だから名簿を作っているのだけど…」
ようやく鴨川自然王国を出発した車のなかで、できたての名簿とプロフィールを読みながら、「この子は、この間、とってもおもしろくてね…」と、目を細めるあたり、すでに2回目にして教え子がかわいいらしい。
トキコさんが教える学生たちは、全国でも珍しい「ウエルネス観光学部」の2年生。将来、ホテルや航空会社、旅行関係の職業を目指している。
初日の授業では、自己紹介も兼ねて、自分の活動や歌を披露。2回目は、鴨川市内のマリーナや汚水処理場、大山千枚田などを見学するバスツアーを実施した。
「地元学って言ってね、鴨川について教えるの。とはいえ、私も勉強しながらなのよ」
3回目の今日は、6,7人くらいのグループをつくり、鴨川の観光、浜辺、歴史、漁業について、調べてきたことを学生が発表することになっている。さて、どうなりますやら?
学生たちが、ぞろぞろ教室に入り始めた。さあ、授業開始! トキコさんのほうを振り向いてみれば、手には、ごつい一眼レフ。そしてガムテープ? いったい学生に何をする気?
「みなさーん、発表の前に、今日は、あなたたちの写真を撮るわ!」
ガムテープに名前をかかせ、ひとりひとり話しかけながら、シャッターを押すトキコさん。キョトーンとする学生たちも、突然の写真撮影会に興味しんしん。イベントなどで遠目に歌手を撮影することはあっても、逆に歌手に、にじり寄られて撮影されることなんてなかなかないだろう。
「きれいに撮ってください!」
「はい、はーい!」
「それで、肝心の発表は、ちゃんと調べてきた?」
「はーい、インターネットで…」
「え?」
トキコさんとしては、実際に漁師の人に、話を聞いたり、市役所を訪ねたりしてほしかったわけなのだが、そのへんは、現代っ子。「調べる」=「インタビューする」ではなく、まずは「ネットで検索」と頭が働くようだ。
とはいえ、ゴールデンウイークを挟んで、学生もみんなで話合う時間がなかったのだろう。トキコさんは、急遽、学生に打ち合わせの時間を与え、それぞれの班の様子を見て回る。
「調べたこと、教えてよ。ふんふん、もうちょい、ここを突っ込んで話すといいわね」
さあ、いよいよ発表!
歴史班、浜辺班と、スライドを使った説明が続く。さすが学生、メディアを使った展開がうまい。次の漁業班の男子学生は、バイト先の仲間から聞いたという話を披露していくれた。
「鴨川の漁獲量は昔と比べて、特にタイが減っているみたいです。それから、あわび漁は、水温が15度以上にならないと、潜ってはいけない決まりがあると言ってました。でも今年は海の水はまだ冷たいそうで、まだ潜れた日はないそうです」
そこで、トキコさんがみんなに問いかける。
「海の温度が上がらない。どうしてだろう? 温暖化で海の温度って上がっていると思うよね?」
首をかしげて考える学生たち。
「日本は寒流・暖流がぶつかる絶好の漁港地なんだけど、全国的に漁獲量が減っているの。みんな、ブッシュさんに選挙で負けたアル・ゴアさんの『不都合な真実』って知ってる? 地球の南から北にかけて、力強く暖流があがって、そして北で冷やされて、寒流が南に行くの。けれども、最近、その流れがゆるくなっている。そういうことも水温や地球温暖化と関係しているのよね」
へえ〜と学生から声があがる。
地元のひとりの漁師さんの声から、寒流・暖流・北欧と話が広がっていく。鴨川を考えることは、世界を変えていくきっかけにもなるかもしれない。

「去年、日本海側は大雪だったでしょ? 温暖化って言ってるけど、なんだ、大丈夫じゃないって思った人もいるけれど、これも温暖化のせい。その仕組みは……おっと、残念ながら、そろそろ時間。でも、そういうグローバルな面からも鴨川を見ていきたいわね。次回は多いに語り合う日にしたいです。……今日は聞いてくれてありがとう!」
ありがとう!って、生徒に言う先生も珍しいけれど、学生から自然に拍手が起きる。
「ふー、終わったー。あー、楽しかった。しかし、この学校、チャイムがならないから、終わりが分らないわ。ほら、コンサートだと幕が下りるから分るんだけどさ」
ケンケンガクガクの学生運動時代を過ごしたトキコさんたち団塊の世代と、今のまったりのんびりの現代っ子とは、だいぶ性格が違う。だけど、帰りの車のなか、デジカメで撮った写真をひとりひとり、私に見せながら、「さあ〜これからが楽しみね!」とフフフと笑う。
先生1年生。決して手際がいい授業とはいえない。けれど、トキコさんと学生の距離がどんどん縮まっていっているのは確かだ。たくさん伝えたいことがある。それは、知識や技術だけじゃない。人として、どうやって生きていくか。そんな想いが授業からじんわり伝わってくるのだ。
|