| 〜2007 登紀子さんの夏〜
感動のap bank fes'07出演!
ビカッ、バリバリバリ…重たい空に稲妻が走る。
超大型の最大級の台風15号、関東に大接近!
7月14日から3日間、静岡県のつま恋で行われる予定だったap bank 主催の夏フェスも吹き荒れる強い風と豪雨にやむなく初日とその翌日も公演中止。
もしや3日目も…とスタッフの誰もがが心配するなか、
「大丈夫、絶対、私の舞台は晴れる」
と登紀子さんだけはどこ吹く風。
ところがである。驚くべきことに、本当に台風は遠くの空へ行ってしまった。
なぜ、天気はそんなに登紀子さんの言うことを聞くのだろう。
掛川の駅から車で10分。つま恋の会場のグリーンが気持ちがいい。野外コンサートといえば、去年の「FUJIROCK」を思い出す。
若い子ばかりの夏フェスで、果たして登紀子さんの歌は受け入れられるのかと心配していたけれど、大盛り上がりで幕を閉じた。
そのステージに一曲だけ参加した娘のYaeさんが、今年はひとりでFUJIの舞台に立つそうだ。
お母さんとは違ったYaeさんらしいしっとりしたライブになるだろう。
山のなかに、いくつも会場が出現する巨大な「FUJI ROCK」とは違って、つま恋は大きなステージがひとつ。こじんまりといているけれど、最初から最後まで同じ場所に観客が集まるというのも、一体感があっていい。 「小林武史さんやミスチルの桜井さんのファンの人たちは、とてもマナーがよくて、ゴミひとつ出さないのよ」とトキコプランニングのS子社長。なるほど、手作り感あふれるふんわりあたたかい雰囲気がここにある。
「わー、登紀子さんが来たー!」
さっきまで顔をゆるめて猫背ぎみで歩いていたスタッフたちが、とたんにピンと背筋をのばしてピリピリ、シャキシャキと働きはじめた。
「それ!」「あれ!」「はい、こうして、ああして」
巨大台風は去ったが、登紀子さん自身が台風なのかもしれない。あっという間に、ぐるぐる回りの人を巻き込んでいく。
準備完了。控え室から出てきた登紀子さんに、「おおっ」とどよめき。未来的なのに、原宿ギャルにも負けないゴシック調。なんともゴージャスでアバンギャルドな衣装に控え室の若手のアーティストたちの視線もばっちり釘付け。
「この服、どうかしらー?」
ジーンズのトンガリブーツに、白いチョウチョのようなアンティーク風のドレスを肩から羽織り、青いベロアの生地を薄いレースでつなぎ合わせたジャケットの袖は通さず、それを腰に巻いているんだけど、そのつなぎ目は見えそうで見えない、ちょいセクシーでワイルドの衣装は圧巻! はい、実にキュートです!
実はこの衣装、ギャルソンやヨージヤマモトの服を、登紀子さん自らアレンジして、デザイナーさんに作ってもらったのだとか。登紀子ブランド、どこかのデパートに出してみてもいいかもしれない。
●人生を愛して、恋人を愛して
さあ、いよいよ2万7千人の待つ特設ステージへ。
櫻井さんの声がバックエリアにも聞こえてくる。
「最高の歌うたいがいらっしゃいます。出演が決まって、どのアーティストよりも一番最初に、リハーサルに来てくれた…気合入ってます…加藤登紀子さん!」
「元気ですかー? 今日は、よかったわね、晴れて!」
と、白いドレスをフサフサと揺らしながら、トンガリブーツで元気よく登場した登紀子さんに、年若い観客も拍手喝さい。

「きゃー登紀子さん、かわいいー!」「すげえー!」
「おー、ミニスカにブーツだ!」
声援を受けて、登紀子さんのテンションもウナギ上り。ステージの脇にはご当地・ウナギアイスの屋台の旗も登紀子さんを応援するかのように、パタパタひらめいている。
「櫻井さんとデュエットなんて、どうしようかと思ったけど、同じブルーの衣装でよかったわー!」
大歓声のなか歌が始まる。
♪空を飛ぼうなんて…
大騒ぎの会場は一転。静まり返って聞き入る観客。柵にしがみついて、名曲「この空を飛べたら」に聞き入る若い子たち。
「この曲はね、中島みゆきさんにいただいた曲なのよ。1978年、生まれてない子もいるかなー?」
会場のあちこちから、「もう生まれているよー」と声が聞こえる。
「今日は、とても楽しみにしてきました。本当に飛べそうな気がするくらい。小林さんや櫻井さんが中心となって立ち上げた環境を考える“apBank”がスタートしたとき、日本のアーティストのひとりとして、とても誇りに思いました。誇りって、砂ぼこりじゃないわよ。プライド。分るかな? みんなも、砂ぼこりを一緒にかぶって(?)、誇りを持ってコンサートに参加してねー!」
「はーい!」
「さあ、次の曲はもっと古いんだけど、19世紀の終わりに生まれた歌なの。『紅の豚』のジーナが歌ったんですけど、『さくらんぼの実る頃』…。この歌には歴史があるの。パリコミューンっていってね、パリを自由な街にしようという市民の革命がおきて、たった72日間なんだけど、市民の政府ができたの。でも、フランス革命よりもたくさんの人が殺された。でも、フランスの人は、この日々をいつまでも忘れない。二人が手をつなぐような真っ赤で美しいサクランボが実ったけれど、落ちて大地に地を染めてしまった…そんな革命の歌は、ラブソングでもあるの」
登紀子さんは、祈るようにして歌い、言葉をつなぐ。
21世紀が始まるとき、20世紀のような戦争の世代は終わり、違う世界を作れるはずだ。そう、考えたけれど、今も、各地で戦争が続いているわね。それでも、信じる。誰かが世界を作ってくれるわけではない。
人生を愛して、恋人を愛して、自分のライフスタイルをつくってほしい、と。
曇り空の隙間から、そっと西日が差し込んできた。
「戦争が終わった後、たくさんのラブソングが生まれたの。エディット・ピアフ『愛の賛歌』、贈ります」
革命を声高く叫ぶのではない。世界を変えるのは、実はそんなに難しいことではない。ひとりひとりの暮らしから生まれる哲学こそが、愛情に満ち溢れた世界を作っていくのもしれない。そんな登紀子さんからの提案を会場にいる若い人はどう受け取ったのか。
さきほど、「もう生まれているよー」とステージに言葉を返していた女の子が「声に泣けるなあー」と涙ぐんでいた。
●人生の交差点
日が沈み、すべてのアーティストの舞台が終わると、全員出演して、小林さん作曲・櫻井さん作詞の曲「to U」を合唱。大きな拍手とともに、夜空には花火がドーン!

「夏フェスって、いいわねー」
登紀子さんは、夏がくると若返る。反対に、若い観客は、登紀子さんのステージを聞いて、ちょっと大人になって家路につく。人生の交差点。
「夏フェス、いいですね」
そう、相槌を打ちながら、来年の夏はどこで歌うのだろうと、今年の夏もまだ終わらないのに、今から楽しみにしてしまうのだ。
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