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土と平和の祭典!〜ココロにタネを〜



ビルに囲まれた東京のど真ん中。
日が沈み始めた芝公園。
きっと普段は、近くの会社のおしゃれなOLさんたちが、お昼休みにお弁当を広げているような静かな公園だ。

けれども、今日は、ちょっと様子が違う。

「ダイコン、いかがっすかー!!」
若いお兄さんが声を張り上げる。

「甘酒、どうっすかー!!」
おっと、こちらはいい匂い。

一瞬、田舎の朝市にでもいるな気がしたけれど、顔を上げれば、東京タワーがピカリと赤く。威勢のいい屋台村をのぞいていると、おや? どこからともなく聞こえてくるこの歌声は登紀子さん!? 

芝生の真ん中に出現したソーラーパネル付きの特設ステージ。まわりにどんどん人が集まりはじめた。


●土と森と子作りと?

今日は、娘のYaeさんが今年の春からずっと全国各地を駆け回り、大奮闘して進めていた環境プロジェクト「種まき大作戦」の最終日。

「11月11日って、ほら、漢字で書くと、十一…つまり、土、土って読めるでしょ」

そう、本日は「土の日」なのだ。

 マイクをバトンタッチされたYaeさんが歌うのは、オリジナル曲『そこらじゅうに神様』。小さい頃、千葉の田舎・鴨川で遊んだ思い出がぎっしり詰まった一曲だ。

登紀子さんはというと、横で動物の爪を集めた変わった楽器をジャラジャラさせて踊っている。



「聞いてくれてありがとう! よかったー、赤ちゃんびっくりして産まれなくて。子供がおなかにいるということで、歌うことがこんなにも気持ちいい。今、妊娠5ヶ月なんです」

おおー! 会場から祝福の声が上がる。

「違うわよYae、もう6ヶ月でしょ。なんか、大きいことやろうとすると、子供ができるのは、きっとDNAなのよ。私もね、何か大きいことをやろうとすると、いつも子供ができるの。でも、最初から3人作ろうとは思ってなかったのよ。1人目を子育てしてたとき、2人目(つまりYaeさん)ができて、もう、やめたい!と思ったんだけど……あ、ごめんね、本人の前で。ハハハハ。でも、3人目の妊娠が発覚したときには、今度はどうにも嬉しくて嬉しくて。つまり、何がいいたいかというと、子供作ろうか悩んでいる人は、つ・く・り・な・さーい!!」

あれー? 今日は子作りをすすめる日だっけ?

「えー、空が見えるところで歌うと、宇宙の奇跡とつながっている…。そんな気がします。体中にそのエネルギーを受け止めて、素晴らしい人生を送ってください。それと、土ですね。今日は、えーと、土と平和の祭典でしたね…(Yaeさんの方をチラリと見て)すみません、大演説してしまいました」

「……はいはい、そうですね」

熱血するとまわりが見えなくなってしまうお母さんから、どうしてこんなに冷静でしっかりした娘が生まれるのか、首をひねったのは私だけではあるまい。

Yaeさんは、静かに言葉をつなぐ。

タスマニアの森を知っていますか? 幹が4メートル、高さは85メートルという樹齢400年の大木が、日本のティッシュペッパーとなってしまう現実を。

♪どこまでいったら、気が付くのだろうか?
深い、深い、森の奥に、聞こえてくるこの歌

『400年も昔から』。そのメロディーがステージからポロポロこぼれおちて、土にしみこんでいく。


●いろんな人が いろんなものを



日が落ちて、東京タワーがくっきりと夜空に浮かび上がってきた。

登紀子さんがギターを取る。

「5年前、夫・藤本が死んだその翌日、発売された雑誌に、藤本の書いた原稿が掲載されました。それを読んで熟年世代が田舎に来るかと思ったら、若い人たちが鴨川に来てくれたのよね。私が鴨川自然王国を引き継ごうとしたとき、近所の農家の人は『ほんとにやるの?』って、ちょっと心配してて。それで自分自身に言い聞かせるためにも、王国にサクラや梅を植えてみたの」

けれども、農家の人は言う。これだから、素人さんは。花なんか植えずに、売れるものを植えなきゃ。なるほどね。それで藤本の親友に相談したら、檸檬を植えようと。その親友ももう、この世にはいない。
大事な人が次々といなくなってしまう現実。でも登紀子さんは言う。

「いろんな人がいろんなものを残してくれる」

鴨川で揺れる檸檬の木は、藤本さんが植えたミカンの木のそばにある。ミカンの木は、大きくなり、今日の会場で、王国の若い人たちが、大きなカゴに入れて売っていた。

いつか実をつける。登紀子さんの作った『檸檬』の曲は、切ないけれど、希望を歌う曲なのだ。


●砂漠のサボテンたちよ!

さあ、夜はこれから。
ジョン・レノンの「イマジン」のあと、アコースティックから、エレキギターに持ち替えて、ノリノリの「パワー・トゥ・ザ・ピープル」!

観客からの手拍子に、仁王立ちの登紀子さんの力強い声が、重たい雲を吹き飛ばすがごとく、ブルブルと響く。

「どうですかー? どう感じてるー? 今日はYaeをちゃんと仕事させなくちゃと思って、ずっと一日、孫のお守りをしていたんですよ。のーんびりした1日だったのが、急に第4コーナーになっちゃったから、ワハハハハ! ん? なんか変?」

飛び切りのテンションに、客席も一緒に大笑い。構わず、ロック歌手のように、手を天に突き出す登紀子さん。威勢のいい『ネーバー・ギブ・アップ・トゥモロー』の後は最後の曲。そう、『レボリューション』!

「地球のボートはねー、ほんとは、そろそろUターンしないとならないかもしれない。そのまま進むと、川は、もうないかもしれない。でもね、この間、養老さんと対談したときね、2つのいいことを教わったわ」

『不幸は文明
幸せは文化』

『世の中を変えるのは大変だけど、
自分を変えるのは簡単で、
変えると世界が変わる』

 ラストの歌を歌い終えた登紀子さんに、Yaeさんが駆け寄ってねぎらう。
「加藤登紀子でした!大きな拍手を。忘れないで。心にタネを蒔いて、来年につなげましょう!」

舞台には、大きな布がかけられている。
登紀子さんが力をこめて書いた言葉。

「砂漠のサボテンたちよ、花を咲かせてごらん」

大変な世の中だ。とりまく環境は厳しい。
だけど、ひとりひとりが、心にタネを蒔く。
いつかは大地にも心にも、きれいな花が咲くだろう。
そんなメッセージがこめられている。



白石 あづさ