docu_tokiko
Stop AIDS! LOVE TO LIVE 2007
〜愛はエイズを止める〜



今年も東京に冬がきた。

赤や黄色、青に緑。街には素敵なクリスマスイルミネーションがキラキラと光り、陽気なクリスマスソングが流れてる。

せわしなくも、心浮き立つ年末に届いた1通の招待状。
おっと登紀子さんからじゃありませんか。

なになに、ストップ・エイズ? チャリティーコンサート? 環境問題だけじゃなくて、いろいろやっているのね…フムフムと感心しながら、11月28日、ゆりかもめに乗って有明のZepp Tokyoへ。

エイズの感染予防や命の尊さを伝えたいと毎年開催されているこのイベント、今年で7年目を迎えるそう。山下久美子さん、川嶋あいさん、矢野真紀さん、下地勇さん、広沢タダシさんなど、世代を超えたアーティストが出演し、音楽を通じて ストップ・エイズを呼びかける。

大きなライブ会場には、ネクタイを締めたサラリーマンや渋谷からそのままワープしてきたようなコギャルちゃんもいる。かと思えば、熟年夫婦がキョロキョロしながら座っていたりと、これまた出演者同様、てんでばらばらな客層がおもしろい。

「年甲斐もなくと言われそうですが」と、ミニスカートで乗り込んだ山下久美子さんは、アップテンポの『赤道小町ドキッ』などを歌い、会場を盛り上げる。  
一方、語りかけるようなメッセージソングを披露した川嶋あいさん。「私が成功したところも見せることなく、私の母は亡くなってしまった。みなさんの大切な人にありがとうって伝えてほしいと思います」と命の大切さや母親との思い出を語った。  

また、海外青年協力隊の一員として、アフリカのマラウィで2年間を過ごしたシンガーソングライターの山田耕平さんが登場。
「貧しいのに、いつでも『ご飯食べていけよ』っていってくれる陽気な国。けれども、親しくなった同じ年の青年が、エイズになった。検査をすると奥さんも子供も陽性。愛するパートナーに移してしまったら、とても悲しい。だから勇気を持ってエイズ検査に行って欲しい。それは愛だと思う。愛がエイズを止める。そんな歌を今日は歌います」    

陽気なジャンベの音と伸びやかな耕平さんの歌声が響く。それぞれの出演者の想いが会場いっぱいに広がっていく。  

感染を防ぐコンドームがいったいどれくらい安全なのか、どれくらい膨らむのか。そんな実験のあと、オオトリにいよいよ、登紀子さんが登場! 赤と黒のノースリーブのジャケットにシックな黒のパンツと、おお、なんだか今日はずいぶん大人っぽいぞ。

「加藤登紀子です。私が来る前に、風船のお勉強かなんかしていたみたいだけど」 ふ、風船!? 会場も大笑い。ちゃんとコンドームっていいましょうよー。ああ、やっぱり、中味はいつもの登紀子さんかも。

「南アフリカでレコーディングしたときにね、参加した現地のミュージシャンがエイズの人を応援しているというので、その病院を見学させてもらったの」

エイズにかかった小さな子供を抱く登紀子さんの映像がスクリーンに映し出される。エイズ患者の大半は、貧しい国の人々。親子で感染している人は多いのだけど、大きな病院だと小児科と大人の病棟は別々となってしまう。けれども、その施設は、空気の循環がいいドームをいくつもつなげた建物で、親子ができるだけそばにいられるよう、配慮されている。

登紀子さんは言う。

「本当に大事なことは、最後の最後まで大きな愛に包まれていること。病気と闘うよりも、悲しみと戦うのは、もっと大変だよね」

その年、「ほろ酔いコンサート」には、全国の会場に募金箱を置いて、エイズ治療施設のための募金を呼びかけた。一方、日本でも一日4人の人が発症している。そんな人たちが、もう隠れなくてもいい、隠さなくてもいいという、空気感を世の中全体に作っていかなくては。
「私の歌『Now is the time』が宇宙船地球号のテーマ曲になった2001年は印象的な年でした。9・11のあと、イラク戦争が始まった。人間は、空のかなたから、爆弾を落とすことができる。ターゲットとにされているかもしれない小さな窓から、青空に希望を求めている人がいる。今日はね、HIVに感染している二人の女性からメッセージをいただいたの。ちょっと朗読しますね」

〜私は薬を飲むことができる。けれども、世界には経済的な理由から、薬が手に入らない人もいる。世界中の人たちが現代医学の進歩に感謝できるような、そんな世界であってほしい〜

〜10数年前、私とパートナーが陽性であることが判明した。夫の看病に追われる日々が続いたが、夫が亡くなると、どっと悲しみが押し寄せてきた。娘もHIVに感染しているかもしれない。けれども、陰性と分ったとき、亡くなった夫に感謝した。娘を守ってくれてありがとう、と〜   

愛は感じること   
愛はさわること   
愛は手を差し伸べること   
愛は求めること   
愛はあなた 
そして私   
愛は私たちが素晴らしく生きられると知っていること   

登紀子さんの歌うジョン・レノンの『LOVE』。いつもより、ずっと深く、深く心に落ちてくる。エイズを止めるのは、科学の力だけではない。愛なのだなあと、妙に説得力があるのだ。

『Never give up tomorrow』、続いて、山下久美子さんと『愛の讃歌』をデュエットするという。

「会うのは初めてねー。今日はね、私の歌に付き合っていただくことに。久美子さんとは同時代を生きてきたのよ〜」 「あのー、えーと、同じでしたっけ?(たぶん10何年離れているとおっしゃたりかったのだろう)」

「ん? いや、あなたが生きている時代は、私はずっと生きたということよ!」



あまーい声の久美子さんと、ハスキーなトキコさんの組み合わせが実に新鮮。絶妙なハーモニーで歌い上げると、二人がっしり手をとり、抱き合って讃えあう。そして、登紀子さん、手にしたのは、真っ赤なエレキギター!! 「もう、終わりなのねー。全員出てきてー!、ほらほら耕平さんも」と、女親分よろしく出演者を並べ始めた。

「ジョンレノンの命日ももうすぐなんです。ん? こっちも全員で歌うということは、そっちもっ、て意味ですから」

もうお客さんとか、観客とか、そんなこと言ってる場合じゃないのよ。みんなで考えるってことは、みんなで歌ってもらいますから。登紀子さんの気迫が客席にムンムン伝わったのか、イスを引き、ゾロゾロと立ち上がる人々。老若男女、全員起立して、レノンの『パワー・トゥー・ザ・ピープル』の大合唱。

他人事だと考えていたエイズ。 そのエイズを止めるには、 医学の力しかないと思っていた。 だけどそうじゃない。

大事なのは、この想いを広げていくこと。 来年はもっと、多くの人が参加してほしいと思う。




白石 あづさ