docu_tokiko
  • -種まき大作戦!土と平和の祭典'08-



    「もしもしー!! …ん? あら、これ留守電なのね。登紀子よー。 ちょっとー!! 元気にしているのぉー? 19日にねー、日比谷公園に来てね! というのはねー、ピイイイ(時間切れ)」  

    夜8時ごろだっただろうか。携帯に入っていた留守電を聞くと、 とびきり元気な登紀子さんの声がする。日比谷公園で何があるのだろう?  かけなおしてみたけれどつかまらない。場所と時間が分ったから、ま、いいか。

    帝国ホテルの前まで来ると、もう日比谷公園のにぎわいが伝わってくる。 都会どまんなかの公園らしく、こじゃれたカフェやセンスのよい花屋もある。

     平日は、ハイヒールを履いた銀座OLさんがお弁当を広げたり、 休日もデート中のカップルが散歩していたりする日比谷公園……から、 今日は、どうしたことか、カボチャを手にしたお姉さんや、ニンジンの 葉っぱが飛び出たリックサックをしょったおじさんがノシノシ出てくるのだ。


    ●ミミズで結ばれている!?

    なるほど。今日は、登紀子さんの娘、歌手のYaeさんが主催する「土と平和の祭典」。 ニッポンの未来に向けて「持続可能な循環型田園都市」を実現するべく 「農」をテーマに全国各地でイベントを行い、その1年の集大成がこの祭典なのだ。

    去年は東京タワーがきれいに見える芝公園で開催されたんだけど、今年は、 日比谷公園でさらにパワーアップ!
     
    会場には出店が並び、至るところ人、人、人。ギャルっぽい女の子も、 子供連れのお母さんも、おじさんもおじいさんも老若男女がウロウロと。

    ……と、ステージのほうから、男の子の声が聞こえてきた。
    ん?この元気でポップな声は、どこかで聞いたような。
    あ! あれは若い人に人気のロックバンド・FUNKISTだ!
    マイクを握るは、ボーカルの染谷君。

    「伝説になるううう〜〜!」

    え? 何が伝説になる?

    「登紀子くぉおお〜〜〜!」

    おお! なんかプロレスっぽい登場の仕方だぞ。



    黒のフリフリドレスで現れた登紀子さん。染谷君といっしょに歌うは、 レノンの『パワー・トゥー・ザ・ピープル』!

    が、右手にマイク、左手にビデオカメラ。
    怪しい。歌いながらカメラ回す歌手って、登紀子さんくらいだろう。

    「かわいいねー! みんな! 素敵な若者たちが素敵に生きたい。 そう思うだけで、それは革命だよー! 
    私たちはそれを『スマイルレボリューション』と呼んでいるの。 FUNKISTの染谷君の故郷は南アフリカ。
    私が一番、愛する音楽家は南アフリカの人。
    どこかで赤い糸で結ばれているのかも……あはは。
    ここにいるみんなとも赤い糸で結ばれているのよ」

    ちょっと、登紀子さん、赤い糸で結ばれるのって運命の人、ただひとりって 意味だと思うんですけど…みんなと結ばれたら、三角関係に四角関係。 血を見そうな気がするのは私だけ?

    「そうか、赤い糸っていうより、みんなとはミミズ…
    そう、ミミズで結ばれているのよー!!」

    「ミ、ミミズ!?」

    おののく会場の人々。
    私は普段、登紀子さんから「土を作るのはミミズ。ミミズはえらい」と 聞いているから、なんとなく言いたいことが分るのだけど、いきなり、 「ミミズで私とあなたは結ばれている」と宣言されたら、びっくりかもしれない。

    隣でノリノリで聞いていたおじさん二人組みが、キョトンとしている。 ああ、赤の他人だけど、説明してあげたい!!


    ●バラに檸檬に

    それにしても今日は風が強い。
    「百万本のバラ」を熱唱するトキコさんのスカートがハタハタとはためく。

    それより気になるのは、ギターを弾いているツゲイさんの頭。
    追い風を受けてカミナリさまのように盛り上がっている。
    とはいえ、盛り上がっているのはツゲイさんだけではない。
    飛んではねて手拍子いっぱいの会場も大盛り上がりだ。



    「さあ、次は弾き語りで歌うわー。日比谷といえば野音。
    結婚する最後のコンサートが野音だったのよね。
    また、ここの場所でやりたいな。そう思っていたんですけど、日比谷公園が 芝生を貸してくれるとは今まで知らなくて…ここ、気持ちいいわねー!」

    そう、確かに。都会のど真ん中なのに、大きな木がいっぱい。
    四季を通じていろんな花が咲いている。
    私も大好きな場所なのだ。

    「自分の好きな場所があるということは素敵よね。みんな、自分にとって 素敵な場所を作っていこう。土・緑・友達・食べ物、ああ、そして酒! 
    そう酒があればもっと素敵。
    私は田舎に住みながら歌手をやる自信がなかったんだけど、
    娘のYaeは農業をやる若者と結婚して田舎で暮らしながら歌手をやっています。 そんな新時代の若者たちにエールを贈りたい。
    感謝をこめて『檸檬』という曲を聴いてください」

    ♪庭に植えた檸檬の木が〜少し大きくなって〜

    「いいねえ、この曲。ぼくはバラの歌もいいけど、檸檬もいいな」

    隣のおじさんふたり、体育座りしながら聞き入っている。



    ●大きな窓から

    さあ、3曲歌い終えたトキコさん、そろそろ終わりの時間?

    「どうもありがとうー! 今日ね、みなさんがおうちに帰ってテレビつけたら、 食糧問題を取り上げた『NHKスペシャル』やってます。 輸入のトウモロコシに頼っていた日本の畜産が大変なことになっている話 なんかがでてきますけど、そのまま、10チャンネルに回してください。『宇宙船地球号』で登紀子が出てるわよー。 自然王国での私の暮らしを紹介したり、廃傘を使って素敵な物づくりに挑戦するの」

    ほー、傘で何を作ったんだろう?
    今度、鴨川の自然王国に行ったら見せてもらおうかなあ。

    「最後の歌です。2002年1月1日、アフガンは戦争の真っ最中でした。 私たちは小さな窓から大きな空を見上げるけれど、世界には大きな空から (攻撃してくる)小さな標的を見つめなければならない人もいる。 でも、大きな空を見上げるそのエネルギーを信じて、『Now is the time』を」

    曲の途中から、ピンクと白のワンピースを着たYaeさんがコーラスで参加。
    ソプラノもきれいだが、今日のYaeさんはとびきりきれい。



    「加藤登紀子でした! 大きな拍手を」
    「ありがとう! Yaeに後はまかせたいと思います!」

    母から娘へバトンタッチ。

    「こんなに多くの人が集まってくださって感謝でいっぱい。
    生きることは食べること。そう、死んだ父・藤本敏夫が教えてくれました。
    人は生きていくために食べなければならない。
    今日、辻信一さんが『オイル(石油)の時代から、ソイル(土)に変わる』と 教えてくれました。土の時代が来る。
    今日、この祭典で、一粒のタネをみなさまの心に蒔けたのではないかと」

    未来ある世の中を渡っていきたい。そんな想いで作曲されたYaeさんの『長い橋』。 静かなメロディーが会場に響く。

    Yaeさんの蒔いた「一粒の種」は、大きな花となるかもしれない。 「みんなミミズでつながっている!」との登紀子さんの迷言も、 いつか実現する日がくるかもしれない。

    「土と平和の祭典」とは、明日から、ふかふかの土に何かを植えたくなるような、 そんな気にさせるコンサートなのだ。


白石あづさ


白石あづさ

10月28日生まれ。東京在住。
生誕1万日目に思い立って勤め先を辞め、

約3年の世界放浪の旅へと旅立つ。
その間、訪ねた国、地域は約100にのぼる。
帰国後、フリーライターに。
ライフスタイル誌や人物インタビューなどを中心に活動。
2008年5月30日に小学館より「世界のへんなおじさん」を出版。

<blog>http://www.hennaojisan.com/