docu_tokiko
  • ■1968プロジェクト始動!
    〜1968は今につながる〜



    2009年、春。
    水がピンと張られた田んぼに足をつけ、一本ずつ丁寧に植えていく。
    鴨川自然王国の田植えには、大人と子ども、合わせて60人ほど集まっただろうか。
    春の一大行事を終え、東京に戻る特急「わかしお」に乗り込む。
    窓の外を眺めながら、リュックから取り出したポッキーをポリン、ポリンとほおばっていると、隣に座って水筒の白湯をすすっていた登紀子さんが、急に首をこっちに向けた。

    「と、登紀子さんも、ポッキー、食べますか?」
    「あづさちゃん、私の『1968』という曲は知っているわよね?」 「もちろん知ってます。ほろ酔いコンサートで披露した♪新宿渚で聞いたコルトレーン〜っていう、あのロックな曲ですよね?」
    「そう、1968年は奇跡みたいな年。私にとっても特別な年なのよ」
    「うちの母からベトナム戦争とかキング牧師暗殺とか、それから日本では学生運動が大盛り上がりだったと聞いてます」
    「2009年のためにあの1968年があったと言ってもいい。ふたつの時代は決して無関係じゃないのね。もっと今の若い人に聞いて考えてほしい。そして行動してほしいの」
    「行動って…ヘルメットかぶってひと暴れ?」
    「違うわよ! 何も角材持って突っ込めなんて言ってないわよ(笑)」

    暮らしを見つめる。環境に関心を持つ。世界に目を向ける。
    人それぞれだけど、ほんの少しの“行動”や“意識”が、よりよい未来を築くと登紀子さんは言う。


    ■動き始めた1968プロジェクト

    2009年、夏。
    みんみんとセミが力いっぱい鳴く鴨川自然王国。春に植えた苗もぐんと大きくなって水面が見えないほどわさわさと育っている。
    夜、焼酎を飲みながら、いよいよ発売されるマキシシングル『1968』について登紀子さんと語り合う。
    FUJI ROCK FESTIVALやap bank fesといった野外コンサートに出演したり、ブログやYouTubeなど若者との距離を縮めつつある登紀子さんだが、「もう一歩、踏み込んで「交流」や「会話」をしてみたい。もうちょっと、気軽にやりとりできないかしら?」。

    そこで提案したのは、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などのコミュニケーションツール。
    ひとりのアーティストがマキシシングルのためのSNSを立ち上げるのはあまり聞いたことがない。でもこれで『1968』を聞いた人どうしが交流したり、登紀子さんと会話したりできるようになるかもしれない。

    SNSを開発する手嶋屋の手嶋氏に相談すると、せっかくなら、つぶやきを発信するツール「Twitter(ツイッター)」も始めたらいいと、登紀子さん相手に講習会を開いた。その様子はまたお伝えすることにして、9月末、販売のタワーレコードさんと制作のユニバーサルミュージックさんと「1968プロジェクト」と題して共同で記者説明会をすることになった。


    ■記者説明会開催!
     あの金髪男子の正体は?

    2009年、夏の終わり。
    タワーレコード渋谷店で開かれた説明会にはたくさんの記者さんが集まってくれていた。運営の手伝いをしていた私は、連休明けのいそがしいときに果たしてどのくらい来てくれるのだろうか?とハラハラしていたので、埋まった会場を見てほっとした。

    私がお声をかけたネット系の記者さんたちは、説明会の会場が会社やホテルではなく、照明を落としたライブ会場なので、慣れないのかキョロキョロしている。一方、芸能関係の記者説明会ともちょっと様子が違うようで、登紀子さんの事務所のスタッフさんからはこんな質問が。

    「あづさちゃん、そこのテレビカメラを運んでいる人たちはテレビの人?」
    「いいえ、新聞社のマルチメディア局の人です。動画を撮ってUPするのでしょう」
    「うーん、新聞社も今や紙とペンだけじゃないのね。じゃあ、あそこで小さなデジタルカメラをまわしている女の子は?」
    「あの方は、ネット中継をするのです。あとからブログにアクセスしても見られますよ」
    「へえー。じゃあ、一番後ろに座って、パソコンカタカタやっている金髪のお兄さんは?」
    「ああ、あの金髪男子はネット界では有名な『つだる』の津田さんです。Twitterを使って中継しているんです」
    「つだる!? じゃあ登紀子さんは『ときる』なのかしら?」
    「そ、そうですね…」

    ユニバーサルの北村氏の司会のもと、いよいよ説明会が始まった。タワーレコードの商品販促統括部の鈴木氏による1968の店頭キャンペーンや手嶋氏によるSNS、トキコプランニングの加藤幸子氏によるプロジェクト趣旨などの紹介が終わると、いよいよ登紀子さんが登場。カメラのフラッシュが光るなか、ありったけの想いを込めて歌う『1968』。

    若い記者さんたちからのたくさんの質問に、登紀子さんが掛け合いで答えていくのだが、時折、笑いに包まれるなごやかでアットホームな説明会になった。その様子はすでにたくさんの記事や動画になっているので、ここで詳しく書かないけれど、ぜひ読んでいただきたい。


    ■登紀子さんのつぶやきも歌も
     素敵だよね

    2009年、秋。
    忙しくて今年は行けなかったけれど、鴨川自然王国の田んぼは冷夏にもめげず、たくさん収穫できたようだ。
    記者説明会から約3週間後、タワーレコード新宿店で『1968』のインストアライブが開催された。
    タワーレコードに来るお客さんは20代、30代の若い人が多い。登紀子さんのファンの多くはもうちょっと年上が多いのだが、果たしてどちらの年代も来てくれるだろうか?
    当日、その心配をよそに、売り場の横のステージの前には続々とファンが訪れ、登紀子さんが登場するのを待っている。会場の中に入れず通路から背伸びしている若者もいて、一番後ろからでは、小柄な登紀子さんの姿はジャンプしなければ見えないほど。

    大盛況のライブが無事、終了し、サイン会に並んだ人たちにご案内の紙などを配りながら言葉を交わしていると、登紀子さんが日々つぶやいている「Twitter」でこのライブを知ったという人がいて、自分のi-phoneで登紀子さんのつぶやきを見せてくれた。

    「素敵だよね、登紀子さんのつぶやきも歌も」

    未来を作る若い人へ伝えたいことがある。
    最初は小さな種だけれど、いつか大きな実を結ぶ。
    登紀子さんの想いも少しずつだけど確実に広がっている。


白石あづさ

「THE EIKEN TIMES」に加藤登紀子インタビュー掲載中!!


白石あづさ

10月28日生まれ。東京在住。
生誕1万日目に思い立って勤め先を辞め、

約3年の世界放浪の旅へと旅立つ。
その間、訪ねた国、地域は約100にのぼる。
帰国後、フリーライターに。
ライフスタイル誌や人物インタビューなどを中心に活動。
2008年5月30日に小学館より「世界のへんなおじさん」を出版。

<blog>http://www.hennaojisan.com/