museum ミュージアム

Under the tree 大きな木の下で

U-1
木には人が集まる。
木があるだけで人がめぐり逢える。
 
キスムというケニアの小さな村に呼ばれて行った時、「たくさんいろんな音楽、聞けるでしょう」と言われていたのに、行ってみたら誰もいない。広場に大きな木が一本あるだけ。「暑いから僕の家に入って少し休んで下さい。」せっかちな私は「休む」というのがどうも好きじゃない。「いつ」「何が」「どう」始まるのか、納得がいかないと落ち着かないほうだ。でも仕方なく彼の家に入るとそこにはおばあさんがいて、彼のお姉さんと生まれたばかりの赤ちゃんがいて、すっかり日常の生活のど真ん中。サイダーをコップについでもらって、私もすっかりくつろいだ気持ちで床に座り込んだ。
 しばらくしてぼーっとけだるい午後の空気にはまっていたら、突然太鼓の音が聞こえてきたのだ。見ると窓の向こうのあの広場の木の下に4人の男が肩から太鼓をぶら下げ、立っている。
 わくわくするそのリズムに私が立ち上がると「外で見ますか?」と彼が言う。「もちろんよ!」と言うと、「じゃ、この椅子持って行って好きなところに座って下さい。」
私が椅子を持って出ると少しずつ村の人たちが集まってきた。木のまわりを人が囲み、子供たちは木に登り、一時間もしないうちにそこは祭りの広場に変わった。
 太鼓の後は女の人たちのダンスとコーラスがあり、その後は4人のバンド、粗末な木のアンプにラインをつないだギターとベースとサックスと歌のグループが登場。最後には50kmほど離れた小学校から先生に連れられてやって来た子供たちのアカペラのコーラスが元気一杯の声を響かせた。
 「今日は一年に一回しかないような祭りだよ。」と村の人たちは興奮し、突然のコンサートに燃え上がった。
 今も太陽を燦々と浴びた広場のあの一本の木の風景が浮かぶ。スピーカーも舞台も何もいらない。木があるだけで充分だった。