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Kiss くちづけ

「内気な少女だった」と言うとみんなに「えっ!」と言われるけれど、ほんとにほんと。
 私の決定的な転機は二十歳直前の出来事からだ。演劇活動をしていてその仲間の一人に恋をしていた。でもずっと片想い。一緒にお酒を飲んだり、ラーメンを食べに行ったり、とっても仲のいい友達なのにその恋を打ち明けられずに二年の歳月が過ぎた。忘れもしない1963年の秋、「大麦入りのチキンスープ」の公演を最後に演劇をやめる決心をした私は、もう逢えなくなるその人に「さよなら」を告げるラブレターを書いた。
 一週間待ち続けた。もしかしたら私の愛に気付いた彼からの返事があるかもしれないと・・・。でも連絡は何も来ず「さよなら」は決定的なものになってしまった。氷りついた心で、私は毎日のように街を歩いた。
 そしてある夜、早稲田大学の大隈講堂で芝居を観た後、ずっと昔の友達に逢った。向こうからまっすぐにこっちに向かって来るその人を見た瞬間の不思議さを何と言おうか。ベートーベンの交響曲「運命」がBGMとしてぴったりのような、迫力のあるときめきだった。
 その夜、再会を祝って飲み歩き、別れ際彼とキスをした。言葉で愛を告げられなかった心の痛手が私を大胆にしていたと思う。
 Kissは心を近づける。人と人の見えない垣根を壊してくれる。氷りついた心の底から熱い涙があふれて、体中が深い海に沈んでいく。
 その恋は短いものだったけれど、はじめて世界で二人だけの異空間があることを知った。
 愛のためには言葉は何の役にも立たないもの。
 Kissこそ最大の言葉。Kissは愛の雫です。

- くちづけ -

キスをしたあの夜 空は星をくれた
ガラスの首飾り 空から降りてきた
秘密の首飾り わたしの胸に
思い出もさよならも 何も知らない
子供のままの くちびるに
ほんとの哀しみを 教えにきたの
ひとりぼっちの さびしさを
もしも時がすぎて 二人別れても
あの日の星空は 消えないおくりもの
はじめてのさよならが 光ってる首飾り
忘れてもかまわない 知らん顔して
誰かとの朝を むかえればいい
けれどあの星空を 捨てるのならば
流れる川に 沈めてね


- KUCHIZUKE -

The night we kissed the sky gave me stars
A glass necklace from the sky came down
A secret necklace across my breast
Memories nor goodbyes nothing did I know
On my lips still like a child’s it came
Leaving me the real sorrow
The loneliness of being alone
As time goes by if two were apart
The starlit sky would be the gift enduring
The necklace glistening with the first goodbye
I would not mind if you forgot feigning ignorance
with somebody else till the morning
But the starlit sky if you throw it away
Please sink it in the river flowing.

A kiss draws our hearts closer. It breaks down an invisible fence between us. Hot tears well up from the bottom of my frozen heart; my whole body slips into the ocean deep.
Though it was a short period we were in love, for the first time, I found there was a different universe in which just the two of us existed in the world.
In love, words become useless. A kiss is the only language. A kiss is the extract, the essence, of love.