ドキュメントTokiko
02.
ドキュメントTOKIKO - Restart
今年の3月1日、8日の2週にわたってNHK総合・プレミアム4Kで放送されるドラマ「水平線のうた」https://www.nhk.jp/p/ts/9935XW69X7/に出演した時、スチールカメラマンとして写真撮影していた小岩井ハナさんに去年のほろ酔いコンサートから、ドキュメントTOKIKO - Restartを担当していただくことになりました。
彼女は女川町の出身で、2011年3月11日の東日本大震災によって家、親戚、友人を亡くした経験を抱えているそうです。被災した人にとって残された写真がとても大切な宝物だった体験から、写真家を目指し写真集も出版しています。
私の歌を生まれた時から聴いていたというハナさんが、どんな写真を撮り、どんなレポートをしてくれるのか、とっても楽しみです。
新しい出会いという意味でRestartというタイトルをつけました。
歌手としての60周年が、また新しいスタートであることが嬉しいです。
今年の私をしっかり見届けて、伝えて下さい。
加藤登紀子
ほろ酔いコンサート2024 関内ホール
「あなたにとっての平和ってなあに?」
先日友人にそう尋ねられた。
一拍置いた後「何事にも脅かされないこと。あらゆる物事を人質に取られないこと」そう答えた。
本心だった。
2011年の3月からあらゆるものを人質に取られ、怯えて暮らしていた過去があったからそう思うのかもしれない。
加藤登紀子さんと初めてお会いしたのは2024年の秋。「水平線のうた」というNHKのドラマ撮影現場でのこと。スチールカメラマンとして作品に参加したものの、ロケ地は宮城県の石巻市と女川町で、奇しくも私の故郷。
2011年3月11日。東日本大震災。高校一年生の時に津波で被災し、家も親戚も友達もたった一日で失った。
それでも「時には昔の話を」を何千回も聴き、魂を静かに鼓舞させながら生き抜いてきた私にとって故郷で登紀子さんとお仕事をご一緒させていただけることはとても感慨深く、不思議な気持ちであった。
ドラマのロケでは津波で友達が亡くなった場所や悲しい思い出が詰まった場所で撮影することもあり、そういう十三年前の絶望の波が足元までザブザブと押し寄せて来る瞬間もあったが、撮影期間でもコンサートで全国を駆け回る登紀子さんのパワーを目の当たりにして勝手に元気をいただいていた。
「80歳の先輩がこんなにもパワフルに飛び回っているのに、泣き言言ってられないわよ、29歳!」と自分自身に喝を入れた。
ありがたいことにそこから生まれたご縁が続き、12月12日関内ホールでのコンサートを撮影させていただく運びとなった。
今日はそんな私の目線で捉えた「ほろ酔いコンサート」の模様を綴ってみようと思う。
ほろ酔いコンサート2024、関内ホールの開場時間は15時。
晴れ渡った横浜の12月の空の下は陽が出ていてもキィンと冷え込む。
エントランスの外にまで続く長い列を見渡すと年齢層も実に幅広くて驚いた。
私の両親よりも先輩であろうお客様も沢山で、もしかすると祖父母の方がお年が近い方が多いかもしれない。

会場は静かな高揚や熱気に満ち溢れていて実に素敵だった。故郷の魚市場を彷彿とするような、そんな生きる人の活気だった。
大関さんの樽酒の周りには次から次へとお客様がやって来る。
各々が愉快そうにそれぞれのペースで酒を嗜む。
見たこともない量の紙コップが次から次へと消えていき、ロビーには日本酒の香りがふわりと充満している。


「なるほど!これがほろ酔いコンサートか!」この時ようやくそれを実感した。
これほどお酒の香りが満ちるような空間であるにも関わらず、悪酔いをしている方がいないことにまず驚く。音楽の楽しみ方とお酒の嗜み方というのはどうも切っても切れないところがあるように思う。
先輩方のご自身に合わせた飲み方とコンサートもしっかり楽しもうという心意気に惚れ惚れし、私もカメラを抱えながら遠慮がちにコップで2杯程樽酒を頂戴した。
お客様と大関の方の「お姉さんもいかがですか?」なんて素敵な言葉を断るなんて勿体無い!
東北の女にとって日本酒は命の水そのもの!

ステージ袖へ向かう登紀子さんとバンドメンバーの皆様の姿をカメラで収めた。
本番直前とは思えないような大らかなその空気に、これまでこのチームで演奏されてきた果てしない積み重ねの片鱗を見る。


ステージ袖で喉をお湯で潤す登紀子さんは「ふふ、熱燗よ」と笑ってみせた。
それを冗談だと気付かずに「私も今2杯程お酒をいただいて来ました」と答えると「えぇ!?もう飲んだの!?お酒飲んでもなんにも変わらないのねえ〜!」と大いに笑ってくださった。(寛大な仕事場で良かった)
そんな穏やかな空気を纏ったまま登紀子さんはステージへ駆けていく。
1曲目は「さびた車輪」


故郷を重ね合わせ、そこから這い上がって人生を再建してきた仲間達の顔を思い浮かべた。何度失ってもそこにまた生きようとする人がいる限り生活や文化は継承されていく。実家の近所には震災の後に生まれた、震災を直に経験していない子供たちが増えた。希望みたいに生き生きと駆け回る子供たちのことも思い出した。
裸足で大地を踏み締め素手で崖を掴み登っていくような、四足歩行のような推進力を感じられて大好きな歌だ。
「四人の演奏と一人の歌声でこんなに大地を鳴らすような気迫が出るの?!」と驚いた。


登紀子さんが今年出された本と同じタイトル!鬼武さんのピアノが心地よく踊って気持ちいい。まだレコーディングをされていない歌らしいのでコンサート会場で聴ける特別感もある。まだ一度か二度しか聴いていないのにすっかり頭から離れない。
「もう終わりだと思えた時 次の瞬間が始まってる 行き止まりだと思えた時 違う景色が見えてくる」ここのメロデイが大好き。
(大好きな歌なのではやく音源をリリースして欲しいです。覚えて口ずさみたいです)
1994年、宮城県生まれ。『水曜どうでしょう』のイベントや書籍撮影を皮切りに、映画、ドラマ、演劇、ライブ、CMなど様々な現場で活動中。
【スチール担当演劇】 EPOCH MAN『我ら宇宙の塵』など。
【スチール担当映画・ドラマ】荻上直子監替『波紋』、岸善幸監『正欲』『サンセット・サンライズ』NHKドラマ『水平線のうた』など
X@hana_koiwai
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