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ドキュメントTokiko

2019
07.
09
オーチャード2019はラブソング! 「LOVE LOVE LOVE」~愛の4楽章~<前編>

【リハーサルでのトキコさん】
オーチャードホール客席。暗闇の中でカメラを両肩にかけながら、脇からそっとステージに上がっていく。本番直前まで、トキコさんとバンドメンバーは丁寧に音色(おんしょく)や合わせ方を確認している。

「もう一回!・・・さっきのほうがいいな。あんまりそこは、力を入れないで。スーッとフェイドインな感じで!!!パーカッションが最高潮まで行ってから入らないと、エッジが立たないから」
トキコさんの言葉にみんなの音がどんどん変化していく。そして何度か繰り返していく内に、メリハリのある、美しい音が何層にも重なっていく。前奏が合い、歌が続いた。「・・・どんな苦しみが、身を引き裂こうと、愛がある限り、すべてはバラ色・・・♪」
『バラ色の人生』(作曲:Louiguy 作詞:エディット・ピアフ 訳詞:加藤登紀子)

こうして一つ一つ、悩んで、修正して、全力で積み重ねられるリハーサル。写真を撮るのはもちろん、そばでトキコさんの言葉や声を聴いていることが、私はとにかく幸せである。
たとえ同じセットリストをベースにしていても、毎回違う。毎回やり直す。そして合った時の胸の震えるようなリズムと音色。そしていちばん嬉しいのは、作りこんでいく途中でトキコさんの笑顔が弾ける瞬間だ。トキコさんの笑顔はいい。こんな笑顔を目にすると、あぁ、このひとを撮っていてよかったと心の底から思うのである。

【愛のあふれる、第一部】

いよいよ開場、一ベル(※)が鳴る。しばらくしてメンバーが入ってくると会場に暖かい拍手が広がり、先程練習していた「バラ色の人生」の前奏が始まった。そして颯爽とトキコさんが姿を見せるとぱっと会場に花が咲いたように見えた。
(※一ベル:開演5分前に鳴るベルのこと)

♪バラ色の人生
♪さくらんぼの実る頃

「このLOVE LOVE LOVEツアーは4月から高知で始まりましたが、歌ってきてわかったことがあります。歌っているときは身体中、愛にあふれているんです!」
トキコさんらしい表現に、客席からは暖かい拍手と楽しそうな笑い声が響いた。
「これがほんとにラブソングの醍醐味なのね!このコンサートが、幸せでたまりません」
そう言ってからひと言。
「・・・愛というものは、めでたいときが良いのではなくて、悲惨な時もまた良いのです。そして別れが最も美しいかもしれないんです。今日はみなさん、たっぷりあふれる愛を感じて頂ければと思います!」

バラ色の人生で幕をあけた一部。トキコさんの歌手人生の第一楽章は、二十歳あたりだという。「みなさんも二十歳に心をスイッチしてくださいね。あんまりいいことはなかったけどね(笑)いいことがあると良いなあ~と思っていた時期でした」

♪思春期

渡辺剛さんのヴァイオリン、そしてかすかに響くはたけやま裕さんのトライアングル、あたたかな歌声に抱かれるようにうっとりと会場は聞き入っている。ひとりひとりがその人生の思い出の中で一瞬、二十歳のころに戻っているのだろうか。
~海の風のなかをあなたは走っていく 何も考えたくない 感じるままでいたい~
(作詞作曲:加藤登紀子)

♪美しき20歳

「二十歳の時に初めてキスをして、恋をしました。そして二十歳の時に“正式に”、お酒を覚えました(会場笑い)。そして二十歳の時に、たばこをやめました(会場笑い)」
面白いことを淡々と話すトキコさんに、客席は笑いの手りゅう弾を投げられたようにあちこちで笑いの炎があがっている。
「若いということは、今から見ると笑っちゃうくらい、「若い」んですよね(笑)なんだったのかな、子供だったのかなと思いますけど。本人は本気で、偉そうですから。いろんなことを見て、(人間てものは、こんなもんだな)なんて思いながら、これから始まろうとする人生に身構えます。今日はまあ、恋の話です。次は私なりに男をずっと観察してきた中で生まれた歌です」
トキコさんの初恋は高校二年の時に知ったアラン・ドロン。クラスメートに似た男がいないか見渡したら3人もいたという。
「愛にたどり着くには、三人も男がいる(可能性がある)わけですね・・・」
と笑いながら歌いだすトキコさん。一瞬、渡り鳥が羽ばたくように腕を回した姿が美しく、一枚、シャッターを切った。

♪ない・もの・ねだり

曲の冒頭、ドラマチックなヴァイオリンから始まる。
~恋すれば別れを夢に見る ひとり旅に出れば人恋し すじ書き通りのお芝居には なじめない男がいるものさ~(作詞作曲:加藤登紀子)
タンゴのようなリズムに乗せて洒落た言葉でつむぐ世界観は大人で、踊るリズムにぐっと引き寄せられたまま別世界に迷い込んでしまったような気持ちになる。

♪悲しき天使

「1968年に、メリー・ホプキンの『悲しき天使』がレコーディングされて、世界中のヒット曲となりました。私の一幕目がここで終わり。そして第二幕、69年は25歳です!人生はあれから50年経ちました・・・50年!十年ひと昔という言葉がありますが、やっぱり50年ひと昔というのが、実感としてしっくりきますね」

「『悲しき天使』を聞いた25歳の頃、歌詞にあるthose were the days…(そんな日があったね)という言葉に、泣きました。人生はいま始まろうとしているのに、遠い昔あんなことがあったね、なんて歌ってる!いつか終わっちゃうのね、私たちが今やってることも。そう思いながら、ほろほろと涙が止まらなかったのを思い出します」
これからだと思ってるのに(過ぎ去った、そんな日があったね)そう思う日がくる。それが50年経った今、わかるような気がするという。そして69年に生まれた歌が始まった。

♪ひとり寝の子守唄
♪愛のくらし

『愛のくらし』は、花を抱えて彼の部屋を訪ねるところから始まり、詩のように季節が巡っていく。美しいマイナーコードに乗せて愛の情景が浮かぶような歌詞。意外にも、それまでトキコさんは歌詞の中で「愛」という言葉を使うことが苦手で、それを初めて使った歌だという。
「40代は、私が最も多くのラブソングを作った時代なんです!でも、ほとんど恋をしていない私が愛の歌を歌っていることに寂しさを覚えたことがあったの。その時、丁度この歌にふさわしいキャストをみつけて、中森明菜さんに『難破船』を歌ってもらいました。でも、ラブソングに年齢は、ないわね!それは今の実感です。どんな年齢でも、ラブソングの風景は浮かんでくるのね」

♪難破船
♪帆を上げて

あっという間の第一部。拍手の中、颯爽と出ていくトキコさんに、拍手は鳴りやまなかった。



ヒダキトモコ

写真家。日本写真家協会(JPS)、日本舞台写真家協会(JSPS) 会員

東京都出身、米国ボストンで幼少期を過ごす。専門はポートレートとステージフォト。音楽を中心とした各種雑誌、各種ステージ、CDジャケット、アーティスト写真等に加え、企業の撮影も多数担当。趣味は語学とトレッキング。

Instagram : tomokohidaki / Twitter ID  :  hidachan_foto

◆グループ写真展に参加予定「日本写真家協会 私の仕事」

2019.7.11-17,
アイデムフォトギャラリー「シリウス」

2019.8.23-29,
富士フィルムフォトサロン大阪
https://www.jps.gr.jp/newface2019_exhibition/