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ドキュメントTokiko

2019
09.
18
トキコさんのフジロック2019 ~豪雨のカフェ・ド・パリにて、夢のような二時間~ <前半>

雨のテントサイトを抜け、カフェ・ド・パリの楽屋エリアに車が到着する。ふわりと身軽に降りていくトキコさんの背中を見ながら、今年は出演何回目だったろうと考える。
2006年に初出演、そして2011年から毎年連続で出演されているトキコさん。数えればなんと、9年連続10回目のフジロックということになる。おそらくそんな風に出演を重ねているアーティストは、他にいないような気がする。

ぬかるむ足元、激しさを増す雨音を楽屋テントの屋根に聴きながら見渡せば、今年のメンバーはトキコさんを若き日より長年支え続けている3名、ギターと三線の告井さん、キーボード、アコーディオン、笛などの細井豊さん。トランペットとバイオリンの武川雅寛さん(通称クジラさん)。
まったりとした雰囲気の中に、あうんの呼吸を拾い上げる落ち着いた信頼感のようなものが漂っている。心地いい空気の中、それぞれがステージに向かった。


クジラさんのトランペットが空高く鳴り響き、ギターとキーボードが明るい前奏を奏でる中、トキコさんが登場するとカフェ・ド・パリは一気に熱を帯びた。

♪大脱走
♪向こう岸へ

「みんな、見える?私小さいから・・・」
トキコさんが最初に言うと、会場には笑顔が広がった。
「ちょっと踏み台、欲しいな!」
そして踏み台が出てくると、えいっとその上に立つトキコさん。
会場から驚いたような歓声があがる。

「今日のメンバーを紹介するね。私と・・・何年?」
告井さん「・・・50年?」
これには会場、トキコさん共に大爆笑。

ここで、多くのアルバム作品などをトキコさんと共に演奏・レコーディングしてきた素敵な3人を、フォトグラファー目線で紹介させていただきます。


まずは告井さん。楽屋ではいつも、アーティスト楽屋からスタッフ楽屋に移動してきて、一緒におしゃべりをしてくださる、気さくで温かい告井さん。LIVE中トキコさんが突然歌いたくなった曲を、どんなに長年弾いていない曲であってもごく自然に演奏できる本当に凄いアーティスト。撮影中に目が合うと、こんなお顔をしてくれるおちゃめな一面も!
細井さんは、告井さんと共にセンチメンタル・シティ・ロマンスのメンバー。数多くの楽器を自在に操り、さっきキーボードを弾いていたかと思えばアコーデオン、そして名前も知らない珍しい楽器の数々。中でも「ひとり寝の子守唄」で演奏される独特の笛の音は、ひりひりするような寂しさで、歌の世界をぐっと広げてくれている気がします。

クジラさんはムーンライダーズのメンバー。大きな身体とアンバランスな程、のんびりとした優しい雰囲気をいつも纏っている。クジラさんのトランペットが響くと、一瞬で明るい太陽にカラリと照らされたような気持ちになる。音楽の力で、一音で、これだけ人の心に影響を与えることが出来ると気づかせてくれるアーティスト。

「私が一回目の25歳を迎えたころから一緒にやってます、ギター告井延隆!キーボード細井豊!トランペット、武川雅寛!」

トキコさんがそう紹介すると会場からは口笛と歓声が上がった。

「去年のフジロックで、最後にリクエストを募ったら、最初に出たリクエストがモンパチ(MOGOL800)の『あなたに』だったんです(笑)」
トキコさんのオリジナル曲ではないリクエストに、会場のみんなは笑ってる。
「その時はメンバーが違ってできなかったけど、今日は告井さんの三線でやります!
・・・『あなたに』!」
会場は、(おーーっ)という歓声と共に盛り上がる。

三線と、会場の拍手が響く中、曲が始まる。沖縄独特の(サッサッ!)という合いの手が告井さんから入ると、会場の中は楽しそうな空気でいっぱいになる。

♪あなたに

歌い終わると、燃え上がるような拍手に包まれた。テントの外にまで、雨合羽をきた人々があふれているのが見える。

「いやー、ほんとにありがとう。外にいるみんな、雨は上がった?」

トキコさんの問いかけに、誰かが遠くから元気な声で「上がった!!」と答えた。

「上がったの?すごい!やっぱり、歌の力だね!(笑)みんな、なるべく濡れないように中に入って聞いてくださいね。色々、思うことはいっぱいあるけれど、まずはこの歌を歌ってから次に行こうか!」

Imagineのイントロが流れる。口笛が会場から響く。

♪Imagine
♪悲しき天使

さびの部分でテント全体が揺れるような手拍子に包まれた。
「(邦名)『悲しき天使』。この歌は聞いたことあるでしょう?ポール・マッカートニーがプロデュースして、メリー・ホプキンが歌ったThose were the daysという曲でした」

♪さくらんぼの実る頃

歌いだしのフランス語に、歓声が上がる。
あっという間に心は、映画「紅の豚」の世界へと迷い込んでしまったよう。
時折、トキコさんがジーナ(映画中の歌姫、トキコさんが声と歌を担当)に見えてきて、不思議な感覚にとらわれる。

「今日ずっと思ったの。フジロックが、これからもずっと続いたらいいなと思う!日本に、フジロックのような場所が沢山あるといいね!ちょっと汚いくらいの顔や、ボロボロを着ているような(会場からは笑い声)、そういう人が大手を振って威張っているような、そういう日本になってほしいと思う!」

そう言いながら、「さくらんぼの実る頃」の話を始めたトキコさん。


「この歌は、150年前の歌なんです。映画「紅の豚」の舞台は、ちょうど今から100年くらい前の、1920年くらいがモデルです。
・・・そのころ私(ジーナ)は青春だったので、いまではすごい年になってしまいました。(会場笑い)ジーナは1920年代にあんな風に、なんとか独りで生きている女です。いろんなことを夢見たのよ。20年代に人間は空を飛ぶことを夢見た。それがその先、どんなに素晴らしい未来を作ってくれるかと夢見ていた世代ね。それからあっという間に第一次世界大戦になり・・・。ジーナが最初に結婚した男がその戦争で死にました。その戦争で死んだ仲間の生き残りがポルコロッソ(「紅の豚」の主人公で飛行機乗り)、というわけね」

♪時には昔の話を
♪ひとり寝の子守唄
♪今どこにいますか

拍手と口笛、歓声が響き渡る。
ギターが走り、明るいイントロが始まると、そこに手拍子が元気に合わさって響いていく。

<後半へ続く>
トキコさんのフジロック2019 ~豪雨のカフェ・ド・パリにて、夢のような二時間~ <後半>



ヒダキトモコ

写真家。日本写真家協会(JPS)、日本舞台写真家協会(JSPS) 会員

東京都出身、米国ボストンで幼少期を過ごす。専門はポートレートとステージフォト。音楽を中心とした各種雑誌、各種ステージ、CDジャケット、アーティスト写真等に加え、企業の撮影も多数担当。趣味は語学とトレッキング。

​Instagram : tomokohidaki / Twitter ID : hidachan_foto