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ドキュメントTokiko

2021
01.
19
ほろ酔いコンサート2020年(東京)~Never Give Up Tomorrow~ー②ー

♪悲しき天使
♪知床旅情

「めぐり逢いっていうのは全て偶然のはずですけど、森繁さん、そして、なかにし礼さんとの出会いも、私が大陸で生まれて日本に引き揚げてきたということに何故か繋がっている。不思議ですね」

森繁久彌さんは、俳優になる前は満州に。そして、なかにし礼さんはトキコさんと同じくハルピンに居た。そんな礼さんから、ある時トキコさんに、石原裕次郎さんへの歌の作曲依頼が来たという。トキコさんは裕次郎さんは大好きだったが会ったことがなく、なぜ自分に依頼されたのか、後日礼さんに尋ねると「だっておとき、僕たちは、同じ時代を見ているからさ。戦争の時の、色んな人が色んな運命の中で生き抜いていったり死んでいったりした時代を見ているから。安心なんだよね」と言われ、その信頼が嬉しかったそうだ。
「礼さんの歌には、人が生きる、死ぬ、ということを大切にこだわって作った熱い想いを感じます」


♪わが人生に悔いなし
~この世に歌があればこそ こらえた涙 いくたびか 
親にもらった 体ひとつで 戦い続けた 気持ちよさ 
長かろうと 短かろうと わが人生に悔いはない~(作詞:なかにし礼 作曲:加藤登紀子)

「人生に悔いはないっていうのは、たぶんないよね。だから、わが人生に悔いなしっていうんでしょうね」

7歳の頃に終戦を迎え、その後の人生でも、様々な悔しさや想いを、深く心に燃やし続けたであろう、なかにし礼さん。だからこそあえて、悔いはない、と言うのだろうという言葉は、なぜか胸に刺さった。
次は、トキコさんが生まれた遠い町ハルピンを歌った一曲。引き上げの頃、赤ちゃんだったトキコさんの手を引いて、ある夜を公園で明かさねばならなかった日、空から真っ白い雪が降ってきて、それを見たトキコさんのお母さんは「美しい。この景色を忘れないで居よう」と思ったという。

♪遠い祖国
♪あなたの行く朝

~いつのまにか 夜が明ける 遠くの空に~
ぽっかりと長閑な風景が浮かぶ、暖かなこの歌は、どこかへ旅立つ大切な人を見送らなくてはならない人の想いを、優しく深く歌い上げてくれる。歌はいつしか独り歩きをして、聴く人にとって、その人その人の情景と思いに寄り添ってくれる、大事な人生の相棒となる。

弾き語りコーナーの最後は、コロナ渦で途方に暮れていたトキコさんが、医師の鎌田先生の言葉に励まされて作った歌。Youtube で配信後、多くの仲間のアーティストが参加をしてくれて、最後には壮大なハーモニーとなっている一曲。医療従事者や患者に寄り添う気持ちがあふれた一曲だ。

♪この手に抱きしめたい
拍手の中、バンドメンバーたちが続々とステージに戻ってきた!
次は、やはり今年亡くなった高田賢三さんを忍んでの一曲。93年の「夢は世界のデザイナー ケンゾー・ジュンコの青春物語~石ころたちの出発(たびだち)~」というドラマの為にトキコさんが作ったテーマ曲で、トキコさん自身もそのドラマで賢三さん、コシノジュンコさんの先生役を演じた作品。伝えたかったメッセージがある。
「みんな、どんな凄い人でも、最初はドジな若者だったんだということ。それをエールとして、いろんな人に送りたい!そして本当に、人生を頑張った高田賢三さんに拍手を送る意味でも歌いたいと思います!」

♪石ころたちの青春

続く後半は、ベースが効く、不思議な不協和音のような世界観から、スタート。
不穏な空気、赤い照明、その中を黒い衣装に着替えたトキコさんがやってきて、見透かしたような笑顔で歌う。その底に流れるメッセージ性と歌のパワーに、凄みを感じる。

♪形あるものは空
♪Revolution

トキコさん「“形あるものは空”は、ほとんど歌ったことがないよね?81年に出した歌で、唯一、このメンバーでも知ってるのは告井さんくらいね!」
告井さん「でも一回くらい歌ったよね」
トキコさん「一回だけね。40年くらい前ね!」
何気ない会話の、時空のスケールの大きさに、お客さん達はクスクスと微笑んでいる。

「力あるものは不安、力あるものは不自由、力あるものは罪、力あるものは恥ずかしい(歌詞より)・・・。今、これを言いたかったんですね!」
信じるメッセージを、大事な時に発することのできる歌手。歌と並んで一つの大きな力を、聴く人に与えてくれる気がする。
「でも、一番大事なのはね、力なきものは自由だということ!」
今を生きる一人一人の国民への、大きなエールのようにも聞こえる。客席は拍手で包まれた。

そして、トキコさんが敬愛してやまない二人の歌姫、エディット・ピアフと美空ひばりの作品が続く。

「エディット・ピアフは第一次大戦のさなかに生まれて、亡くなるまで歌っていました。ひばりさんは第二次世界大戦、8歳の時に横浜空襲。何故、二人が炎のように命を燃やして歌い続けられたのか、その思いを私はいつも心の中に大事にしています」

♪愛の讃歌
♪終わりなき旅
そのまま、「百万本のバラ」のイントロが始まると、会場全体から手拍子がうねるように湧きおこった。

♪百万本のバラ
例年だと客席と一緒に歌いあげる名曲だが、今年はそれも少し我慢。
さびを歌い切った後、笑顔で袖に戻っていくトキコさん。

すると突然、洒落たリズムのジャズっぽいメロディと、告井さんの歌声で「seventy-seven, Tokiko, seventy-seven, Tokiko・・・」とサプライズ・ソングが始まった。会場も途中から気づいて、手拍子が起こる。そして袖から覗くトキコさん。これ以上ないほどの、嬉しそうな笑顔で、みんなからの祝福を受けた。

♪Happy Birthday dear Tokiko
Happy Birthday to you!
告井さんが指揮をとって会場中がトキコさんに歌えば、ステージから最高の笑顔でトキコさんが叫ぶ。「どうもありがとう!!!」

続いて、優しいピアノから、バンドメンバーのハーモニーで始まる一曲。

♪未来への詩(うた)
「Pray for ever祈り続ける、sing for future未来のために歌う
Reach your arms 腕を差し伸べgive your heart心を届けよう
そういう歌詞です。今年の5月、NHKの深夜便にで流れました。
私の言いたいことが、全部ここに入っているよね!」

そして袖のスタッフを振り返り、
「もうちょっとやってもいいよね今日は?最後だし!」
そういうと、白く可愛らしい襟を脱ぎ捨てて、「One, two, one two three!」で始まる一曲!

♪Power to the people

会場中からの力強い拍手の中、トキコさんはこんな新しいアイディアを口にした。
「Power to the peopleのpeopleってね、以前は群衆というイメージだったんだけど、今年は歌っているうちに、これは一人一人の力だなと感じました。一人一人が頑張って生きているから、それが集まってpeople ということ!ああ、これで今日言いたいことは全部、私言えました!」

コロナ渦が深刻さを増しそうな2021年へ続く今年のほろ酔いコンサートで、トキコさんの〆の言葉は熱かった。

「独楽(どくらく)って書いて、こまと読む。独りで、自分で楽しむ。そういう感じで乗り切っていきましょう!そして独楽も、やっぱり勢いつけないと回らないわ。というわけで、Begin Againをお送りします!」

疾走感のある、青空の下を走っているようなイントロ。

♪Begin Again
~いまはじまる!~(作詞作曲:加藤登紀子)

歌い終わり、最高の盛り上がりの中、会場みんなの手拍子がやまない。まさか更なるアンコールか?するとトキコさんは笑って
「”Begin Again” だから、最初から全部やり直そうか?(笑)なんてね!
じゃあ冒頭の”Never Give Up Tomorrow” を歌って今日は終わりにしたいと思います!」

♪Never Give Up Tomorrow

明日をあきらめない。
今日よりずっといい明日が待っているはず。
それは、この未曽有の災害の中、下を向きがちになる我々の背中をドーン!と押す言葉でもある。最後は笑顔で、ステージと客席で、エアーハイタッチを交わして終わった。

コロナにかからないこと。でも、萎縮するだけでなく、明日をあきらめないこと。
生きることと死ぬことを改めて身近なこととして考えさせられた2020年。締めくくるこの夜のひとときは、一人一人の胸に炎を灯して終わったように思える。
明日をあきらめない。そんな2021年が、いま始まる。

ほろ酔いコンサート2020年(東京)~Never Give Up Tomorrow~ー①ー
https://www.tokiko.com/newinfo/view/575

(写真と文:ヒダキトモコ)




ヒダキトモコ
写真家。日本写真家協会(JPS)、日本舞台写真家協会(JSPS) 会員
東京都出身、米国ボストンで幼少期を過ごす。専門はポートレートとステージフォト。音楽を中心とした各種雑誌、各種ステージ、CDジャケット、アーティスト写真等に加え、企業の撮影も多数担当。趣味は語学とトレッキング。
​Instagram : tomokohidaki / Twitter ID  :  hidachan_foto