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ドキュメントTokiko

2021
04.
23
フォトグラファーから見た ほろ酔いコンサート東京公演 ヒューリックホール2日目 2021.12.26. ~音楽とお酒と花物語~①
【コロナ渦でのほろ酔いコンサートの魅力】

ほろ酔いコンサート2021、東京公演2日目のヒューリックホールは、開演前のざわめきに包まれていた。
世の中は引き続きコロナ渦で不自由さは感じるものの、年末恒例のほろ酔いコンサートに向かう人々の顔は明るく、それを見た自分も、やはり気持ちが明るくなるような気がした。
みんなで過行く一年を生きて抜いたことを噛みしめ、乾杯し、またスカッと新たな心で新年に向かう、そんな恒例行事としてのほろ酔いコンサートが人々に与えるパワーこそが、このコンサートの魅力だと思う。素晴らしい歌に包まれながら、トークではトキコさんならではの愛情あふれるエピソードの数々や、笑いと時に涙と。それらが有機的に繋がり、ひとつの大きな力となって、コンサートに参加した一人一人の背中をぐっと熱く押してくれるのだ。

【一部開演!】
♪サボテンの心
♪棘あるバラ
♪灰色の瞳

「ほろ酔いコンサート!東京は49回目です!
去年は振る舞い酒を出せなくて、私一人ステージで飲んでいましたが、、、乾杯!
素晴らしい2022年にしましょう!」
トキコさんの一言で一気に、ああ、ほろ酔いコンサートに来たなあ、という気持ちになる。
そしてその撮影はちょっとほかのコンサートでは味わえない、特別な楽しさがある。

「去年ダブルセブン(77歳)となりましたが、今年は78歳、七転八倒・・・ダブルサンキュー」
それを聞いた客席は、意味がわからないようでざわつく。

「なんで全然わかってくれないの!?39(サンキュー)×2ということですよ!」
とネタバラシをすると客席はなーんだ!というような楽しそうな笑いに包まれた。

そして先程『灰色の瞳』を一緒に歌った告井さんについて、話し出すトキコさん。

「告井さんはね、私が結婚してから後の音楽活動を全部面倒みてくれたひとなんです。よく私の夫が「告井さんお世話になります、このわがまま娘が」って言っていましたよ(笑)」

今年もコロナ渦でこんな状況だからこそ、ぱっと華やかにという意味を込めて、「花物語」というテーマにしたというトキコさん。ステージも花が一杯に咲き誇り、歌の鮮やかさを一層引き立てている。
そして花にまつわる2曲が続いた。

♪わが人生に悔いなし
♪この空を飛べたら

『わが人生に悔いなし』は、石原裕次郎さんの最後の一曲となった作品で、なかにし礼さんから歌詞を渡されてトキコさんが作曲した一曲。裕次郎さんはレコーディングも出来るかどうかという状態で、酸素吸入をしながらドクター付き添いでのレコーディングとなった作品。裕次郎さんとは会ったことがなかったトキコさんになぜ依頼したのかと、トキコさんが後日、なかにし礼さんに聞くと「だって、おときと俺は同じ時代を見てきたからね」と言われたというエピソードを聞かせてくれた。

『この空を飛べたら』は中島みゆきさんに依頼して書いてもらった一曲。依頼をしてから、みゆきさんがトキコさんの歌う姿を舞台袖に見に来て、書いてくれた歌詞。当時は歌手生活25年くらいの時期で、歌詞にある“暗い土の上に叩きつけられても、凝りもせずに空を見ている”、そんな人間像のイメージを、歌うトキコさんの中に感じた、みゆきさんは凄い。
「これを歌うたびに、そうか、みゆきさんから私はそう見えたのだと。改めてこの歌の大切さを思うようになりました」というトキコさん。

アルバム『花物語』の中で、この曲だけ、直接的に花が歌われていない。でもこの歌詞に歌われたものは、まさしく花そのもの。花の種は大地に叩きつけられ、雨に打たれて、芽を出し、空を見ている存在だという。そしてトキコさん自身、色々な悲しいことが起こる世の中で、力強く根を張る種や花のような人なのかもしれない。

「去年も今年もコロナで大変です。でも、大切な時を生きているという感じがあって、なんとかしてスカっと生き抜かなきゃ、ちゃんと生き抜かなきゃという思いがあります。でも最初の2020年4月の緊急事態が始まった頃は、やはり相当参っていました」
そんな時、医師の鎌田實さんから「あなたには歌があるでしょう。どんなときもあなたは歌手でいてください」と言われて作った曲。1年以上たっていろんな方がカバーしている作品でもあるのが、『この手に抱きしめたい』。

♪この手に抱きしめたい
♪花よ風よ


『花よ風よ』はトキコさんの次女で歌手のYaeさんの作品。ファーストアルバムにこの歌があって、当時、なんと大人っぽい歌を作ったんだろうと思ったというトキコさん。確かに古語が使われていたり、淡い色彩が何重にも重なり深まっていくようなメロディと歌詞で、静かな世界観が広がっている。若き日のYaeさんの心模様なのだろうか。
「実は昨日、あれはいったいどういう意味だったの?って初めて聴いたの。そしたら、青い草の上に寝転がっていたら、空がワーっと涙色に変わって、自分がお母さんの子宮の中にいて、ギャって泣いて生まれてきたことを思った、という話でした。それは考えもしなかったです!(笑)」

そんなYaeさんの人生は、ほろ酔いコンサートがなかった年がない、という人生。
「おっぱいの味にはちょっとお酒の味が混じっているという(笑)、そういう胎内で感じたものはお酒の匂いだったのかと思います」というトキコさん。

Yaeさんが今年、50年前からトキコさんが歌ってきた「酒は大関」を受け継いで歌うことになった。今年はこの作品を作った小林亜星さんが亡くなった年。創業310年間の歴史を背負う大関の、いつまでも色あせないこの名曲からYaeさんの歌が続く。

♪酒は大関

爽快感のある優しい前奏から始まり、透明感と芯のある強さが同居する、トキコさんの歌とはまた違う魅力をもったYaeさんの『酒は大関』だった。

会場からは大きな拍手が沸き上がる。
「ありがとうございます、改めましてYaeです。
私にとっての、ほろ酔いコンサートは、生まれたときから、お腹の中からです。
子供の頃から、お酒の香りがプーンとするこのコンサートの雰囲気が何とも大好きで、大人が嬉しそうな顔して、音楽とお酒にあふれた、うらやましい世界だった。今そのステージに立つことができて本当に興奮しております。そして大関も操業310年。時を重ねて未来を醸すと。私自身、子育てをしながら、この子たちに何を残せるのだろうかと思います」

そんなYaeさんは昨年が歌手生活20周年。記念のアルバムは、On the Boarder。Yaeさんからトキコさんにプロデュースをお願いした一枚だ。

「世界中で紛争が終わらない。なぜ人は人を傷つけてこんなにも残酷になれるのだろう。国境線などのボーダーに立ち、分断をなくしたい。そのために音楽はあるのではと思います」
平和の種まき、という言葉をYaeさんは使った。
そんな思いを込めたタイトル曲、On the Boarder から続く3曲は、Yaeさんの歌声に酔いしれるひとときとなった。
♪On the boarder
♪残照
♪For you

~またいつか あなたに 会えることを 強く こころから願う~
撮影しながらレンズを通して感じる、Yaeさんとトキコさんの歌世界は、全く違う肌感覚だ。歌声をお酒に例えるとして、トキコさんが芳醇なワインなら、Yaeさんはきりっとした透明感のある日本酒だろうか。Yaeさんの歌声には、そんな単純な対比では説明しつくせないような、柔らかさ、おおらかさ、うわべだけでない何かに根差した芯の強さ、同時に暖かさが、ここ数年深みを増しているように感じる。透明感のあるその歌声の強さは、暗い泥にどっしりと根を張って水面(みなも)にぽっかりと咲く、蓮の花にも似ているかもしれない。
それぞれの個性で、こんなに素敵な歌を聞かせてくれる、素敵な親子だと思う。(②へ続く)

ヒダキトモコ

写真家。日本写真家協会(JPS)、日本舞台写真家協会(JSPS) 会員

東京都出身、米国ボストンで幼少期を過ごす。専門はポートレートとステージフォト。音楽を中心とした各種雑誌、各種ステージ、CDジャケット、アーティスト写真等に加え、企業の撮影も多数担当。趣味は語学とトレッキング。

​Instagram : tomokohidaki_2 / Twitter ID : hidachan_foto