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ドキュメントTokiko

2022
07.
13
2022.6.18. オーチャードホール「時を超えるもの」ー①ー
【今年のオーチャード】

2022年、夏のオーチャード。
まだ終わらないコロナ渦に加えて、ウクライナへのロシアによる軍事侵攻。暗い気持ちを上塗りされるような2022年の前半が過ぎようとする頃、恒例となっているトキコさんのオーチャードホールでのコンサートへ撮影に向かう。

検温やアルコール消毒を済ませて楽屋に向かえば色とりどりのお祝い花が心を和らげてくれる。真っ暗な客席に入り、リハーサルが始まると、いつもと変わらず全力投球でバンドメンバーとの合わせをして、音を研ぎ澄ませていくトキコさんの姿があった。歌はいつでも、力をくれる。オーディエンスだけでなく、我々を含めた、音楽の周りに関わっている全員に、パワーを与えてくれる気がする。



本番少し前に廊下でトキコさんを待つと、楽屋のドアが開いて目の覚めるような、明るい海色のドレスに身を包んだトキコさんが颯爽と出てきた。
思わず、綺麗ですね!と言うと「行ってきます!」と笑顔でステージ袖へと向かった。

【コンサート開演!前半のスタート】

客席の客電が落ち、ざわざわと柔らかい群衆の音が次第に静まり、バンドメンバーと、コーラス隊の方々が静かにステージ上に現れると期待と嬉しさのまじりあった静寂がホールを包む。男女4人のコーラス隊の声が高らかに響く中、現れたトキコさんに会場は一瞬で拍手に満たされる。大きな明るいエネルギーに会場全体が包み込まれるような壮大な歌とコーラスで、コンサートが始まった。



♪海からの願い

~生まれたばかりの魚のように 初めて知った水の冷たさ~(作詞作曲:加藤登紀子)

♪色即是空
~余計なものはみんな捨てて 今日はどこかへ気軽な旅~(作詞作曲:加藤登紀子)

「時は・・・1972年です。なんちゃって!50年経ちました。今歌った2曲は72年の春頃に作った曲。私にとってはとても大きな人生の転機(結婚・出産)のあった時期です。ピアフが歌の中で言っていることですが、人生には三度鐘が鳴ると。一度目は生まれたとき。二度目は大切な人と巡り会えた時。最後はこの世を去る時。私はこれにもうひとつ、旅立つとき、を加えたいです」

この大変な2022年は大きな人生の曲道かもしれない、とした後で、自身の一生分の想いを込めてそれに立ち向かっていかなくてはいけない、と話すトキコさん。
「じっくりと振り返っていこうと思います」として歌いだすのはスタジオジブリ「紅の豚」の中でも愛された一曲、『時には昔の話を』。(~見えない明日を むやみにさがして 誰もが 希望をたくした~作詞作曲 加藤登紀子)歌詞のこの部分は、いまの日本や世界を歌ったようにも感じられる。


♪時には昔の話を
♪愛のくらし

♪生まれた街


1976年に『回帰線』というアルバムが出ている。当時、2人の子供を育てながら、多忙で、自分の人生が吹き飛ばされそうな毎日を過ごしていたというトキコさん。

「色々な思いの中で、自分自身のルーツをたどって取り戻してみたいという気持ちでつけたタイトルです。このアルバムを全面的にサポートしてくれたのが告井さんでした!」

そう言って笑顔で向き合うトキコさんと告井さん。

トキコさん「告井さんと出会って丁度50年かな!73年に出会っているからね」
告井さん「50年過ぎましたよ」
トキコさん「いや、過ぎてないよ。だって73年だから…」
告井さん「僕は72年に出会ったと思いましたよ」
トキコさん「えー?まあ、いいや!笑」
そんな50年来の二人のやりとりに会場からはクスクスと笑い声が広がる。
50年間一緒に音楽をやる。それは考えてみればものすごいことだと思うのだ。



トキコさんが、1歳8か月の時に終戦。2歳8か月で帰国。故郷のハルピンを想像して作ったのが『生まれた街』だという。
「ふるさとは遠くにあっても、いつか帰っていくところ」そんなトキコさんの想いのこもった一曲が続いた。

♪あなたの行く朝
~あなたの行く朝の この風の冷たさ 私は忘れないいつまでも~(作詞作曲:加藤登紀子)
どこか懐かしいような、温かいような、それでいて寂しいような、胸が熱くなるような。
トキコさんの眼で見た世界の豊かな情景が我々の心の中にも広がり、それをメロディと歌詞で複雑な色合いと温度をもって染み渡らせてくれることに、改めて感動する。

♪知床旅情
知床旅情はトキコさんにとって特別な一曲である。
1968年の3月に夜空の下で、のちに夫となる藤本敏夫さんがトキコさんに歌ってくれた歌。歌の持つ、想いを伝える力に改めてショックを受けて歌手としての気持ちを引き締めなおしたというエピソードもある。のちに『知床旅情』を歌う森繁久彌さんに「僕と同じ心で歌う人を見つけた。君の声は(ハルピンにいた頃は小さくて覚えていないだろうが)ツンドラの冷たさを知っている声だね」と言われたこともある。
♪声をあげて泣いていいですか
♪果てなき大地の上に


会場は拍手の渦。きっと胸一杯になっているであろうオーディエンスの前でトキコさんが何やらスタッフに聞いている。「だめ?もう一回やろうかと思うんだけど?」何だろう、と思って見ているとニッコリとしたトキコさんが客席に語り掛ける。

「このコンサート、配信するんですよ・・・それでね、ちょっとだけ、違う言い方をしちゃったところがあったんですが(会場は笑いに包まれる)それも楽しんでください」

会場を、思い切りしっとりさせたり、胸一杯にさせたり、涙ぐませたり、ちょっと笑わせたり。そんな、重くなりすぎない軽やかさに楽しさを感じつつ、前半が終了した。

ヒダキトモコ

写真家。日本写真家協会(JPS)、日本舞台写真家協会(JSPS) 会員

東京都出身、米国ボストンで幼少期を過ごす。専門はポートレートとステージフォト。音楽を中心とした各種雑誌、各種ステージ、CDジャケット、アーティスト写真等に加え、企業の撮影も多数担当。趣味は語学とトレッキング。

​Instagram : tomokohidaki_2 / Twitter ID : hidachan_foto