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ドキュメントTokiko

2023
07.
03
満員の客席は、広場の真っ赤なバラの花(2023年夏の東京国際フォーラム)②
【第二部へ!】

短い休憩をはさみ、第二部のステージへと向かうトキコさんを再び廊下で待ってみた。

第一部が始まるときの雰囲気とはまた違った様子で、こちらを見るとふんわりと笑顔を見せながらトキコさんが静かに目の前を通り過ぎる。ぐっとシックな黒のドレスはかっこよく、肩からのぞく肌色もさりげない抜け感を感じさせる。かっこよさの中にどこかいつも、ちらりと可愛さが隠れているような気がする、トキコさんのスタイルである。
♪愛の讃歌

今年はエディットピアフが亡くなって丁度60年だという。
「本当はピアフ物語の再演をしたいくらいだったのですが。私が19歳の時にピアフが亡くなった時の衝撃は、今でも覚えています。そしてピアフはなんと、1915年生まれ。私の母と同い年なのです。ピアフも母も、気の強いところがすごく似ていて、この時代を生きた女だという気がします。どうしようもない噴火口みたいなものがピアフの心の中にあるのを感じてずっと好きでした」

そんなピアフの代表曲、『愛の讃歌』を歌ったトキコさん。

「もう1曲、今日歌いたい歌があるのです」

ピアフは1963年10月に47歳という若さでこの世を去る。
人生の灯が消える少し前、彼女の名曲を沢山書いてきた作曲家シャルル・デュモンがジャック・ブレルと共に書いた作品がある。結局、ピアフの病状が芳しくなく歌えずに終わった一作。『あなた次第』

作詞家ジャック・ブレルの作品が大好きなトキコさんは、この作品を生かしたいと思い、シャルル・デュモンと話してトキコさん自身が日本語の歌詞をつけて歌ったのが、2016年。ピアフ生誕100年の年だったというから、色々な思いと時代の歯車がかみ合って我々の心に届けてもらった、奇跡の一曲のような気もする。

♪あなた次第
♪デ・ラ・シ・ネ

トキコさん「このデラシネって言葉はフランス語で根無し草、故郷を追われた人のことをいいます」
トキコさんは、この「デ・ラ・シ・ネ」も含め、82年、83年、84年と坂本龍一さんと共に沢山の作品やアルバムを生み出したという。

「YMOが活動を再開する狭間の時期で、坂本龍一さんとは大変深い曲作りが出来ました」
続く2曲は、悲しく美しい旋律が心に染みる、ポーランドの歌が続いた。

♪愛はすべてを赦す
♪今日は帰れない


20世紀は戦争と破壊の世紀といわれ、人がその生きた時代を映像として残すことができる、そういう時代が始まったといわれている。

トキコさん「NHKの番組で『映像の世紀』という番組があります。この番組のテーマ曲として加古隆さんが作られた作品が大好きです。何か遠いところから、私たちの生きたおぞましいほどの歴史を見つめている、視線を感じる曲です」
その作品に、トキコさんが詩をつけて朗読をしてくれた『無垢の砂』。
加古さんの静かな世界観の中に、トキコさんの言葉が染みわたっていく。

♪無垢の砂
♪IMAGINE
♪花はどこへ行った

ジョン・レノンの『イマジン』と、『花はどこへいった』は本当に長く世界中で歌われてきた作品。ウクライナ支援CDの『果てなき大地の上に』の中で『イマジン』に、初めて日本語の語りを入れて収録することを、ヨーコさんから許諾を頂いて今回の音源の中に収録することができたというのも、考えてみると凄いことだ。

『花はどこへいった』を作ったピート・シガーに会いにアメリカに行ったこともあるトキコさん。あいにく奥様の亡くなる直前で会えなかったという。

トキコさん「歌が色んな旅をして、様々な場所で生きる力を生んでいるのだなと思います!」

そしてアンコール!!!
この日は特別に、大コーラスと共に歌う、『百万本のバラ』が待っていた。
トキコさん「お入りください。東京女性合唱団そして、ボジャの皆さんです!」

昨年末のほろ酔いコンサートのときに、湯川れい子さんも一緒に『乾杯』という歌を歌った、そのコーラスメンバーで、『百万本のバラ』のロング・バージョン(ラトビアの子守唄の朗読も含めたバージョン)で歌うため、沢山のコーラスメンバーが舞台上いっぱいに広がった。背後には真っ赤なバラをモチーフにしたセットの下で、その光景だけでも胸が熱くなりそうな迫力と美しさだった。

「この歌は、元々ラトビアの悲しい子守唄でした。これがソ連時代に壮大なラブソングに翻訳され、大ヒットしました。(それをトキコさんが日本語訳をつけて、日本でも大ヒット)これからも国や時代を超えて、人々の心をつなぐ歌として、ずっと歌われ続けてほしいと願って、今日はみんなで歌います。では、お送りします。百万本の、バラ!」

♪百万本のバラ

トキコさんの詩の朗読から始まり、最後は壮大なスケールの大コーラスとなった。
名曲が、更なる音量と深さをもってホール全体を埋め尽くし、客席からの拍手は鳴りやむことがなかった。

トキコさんはマイクを握って、ちょっといたずらっぽく客席に言葉をかけた。

「本当はね、歌詞の中に出てくる「この広場いっぱいのバラ」っていうのは、私はステージから見た皆さんのことと思って歌っています。一人ひとりがバラの花ね!そして広場を埋め尽くす、いっぱいのバラが皆さんなの!」


この思いがけない表現に、客席からは(おー!)というどよめきと共に、思わぬ告白を受けて照れたような楽しそうな笑い声と、熱い拍手が沸き上がった。

「この歌のモデルとなった画家ニコ・ピロスマニの故郷ジョージアに行くツアーを計画しています。皆さんもジョージアの旅に私と一緒に行きませんか!さあ、今日歌うプログラムはこれで、一応全部、おわりました!」

大きな拍手に包まれながらメンバー紹介をしたあと、「ありがとう!!」と叫んで袖へと去ったトキコさんだが、それでも更なるアンコールを求めて鳴りやまぬ拍手に、もう一度顔をみせ、ささやくように客席へと語りかける。

「・・・全てに終わりはある!(笑)」

これには会場がまるで大きな一人の生き物のように大笑いに包まれた。

「残念ですけど!(笑)」

そんな軽やかな笑顔を見せながら、最後にもう1曲、披露してくれるトキコさんに会場は嬉しそうな歓声に包まれた。

「今日は最後に松本零士さんの映画『キャプテンハーロック(2013年)』の冒頭の場面で、私が作って歌った作品をお届けします。亡くなった松本さんへの思いも込めて、歌わせて頂きたいと思います!」

♪愛はあなたの胸に

これもまた、『百万本のバラ』とはまた違う意味でスケールの壮大な楽曲である。
それが終わりに近づくころ、トキコさんが拍手の上にのせるように、大きな声でシャウトした。

「愛がここにあふれること!
愛が、ずっと遠くの国の人のところにもあふれるように。
この愛が憎しみに姿を変えることが無いように。
祈り続けましょう、今日はありがとうございました!」


これ以上ないくらいの、会場中が拍手に包まれる中、この日は最後に客席バックの記念写真を、久しぶりに撮った。

私の掛け声に合わせて、客席一人ひとりが、暗がりの中で手を挙げて叫んでくれた。
「トキコーーーー♪」
その瞬間の一枚です。

記念写真を撮り終わって両腕で大きな〇を客席に見せた瞬間、会場全体から楽しそうな笑いと大きな拍手が起こる中、本当にコンサートは終わった。

登紀子さんが再び客席に向かって「ありがとう!」と大きな声で叫ぶと、客席も答えるように拍手と笑顔とエネルギー、熱い想いをステージに送ってくれた。

その様子をトキコさんの背後から感じながら、私がリハーサルの時にみた真っ暗な深い海のような静かな客席は、本番は全然違うものであることに気がついた。
トキコさんから見た本当の客席は、こんなに熱く、生き生きとした温かいものなのだと感じて、言葉にならないほど胸が熱くなったまま、私がバンドメンバーと袖に入る頃には、夢から醒めたばかりのような不思議な高揚感に包まれていた。

トキコさん、素晴らしい夏のコンサートを、今年もありがとうございました。

ヒダキトモコ

写真家。日本写真家協会(JPS)、日本舞台写真家協会(JSPS) 会員

東京都出身、米国ボストンで幼少期を過ごす。専門はポートレートとステージフォト。音楽を中心とした各種雑誌、各種ステージ、CDジャケット、アーティスト写真等に加え、企業の撮影も多数担当。趣味は語学とトレッキング。

​Instagram : tomokohidaki_2 / Twitter ID : hidachan_foto